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とある市場の天然ゴム先物 22

天然ゴム価格は操作できるのか ~INROの挑戦と挫折

連載 2021-09-07

国際協調の終焉

 さて、INROですが、市場の膨張が破裂した1997年のアジア通貨危機により岐路を迎えます。

 タイ、インドネシア、マレーシアといった天然ゴム輸出国が深刻な経済危機に直面し、単一通貨建てへの移行や為替レート減価に応じた基準価格引き上げ、介入価格帯幅の縮小などを主張した一方、輸入国側では輸出国通貨の減価には双方にメリットもあることから救済措置は時期尚早と応じず、両者が激しく対立することとなります。

 この両者の利害をINROで調整することができなかったことから、マレーシア、タイ、スリランカがINROからの脱退を通告します。その後も調整は折り合わず、最終的に1999年10月13日に国際協定が終了することが決議され、約20年に及んだ天然ゴム価格安定化への取り組みに幕が下ろされることになりました。

 その後、INROで行われていた天然ゴムに関する国際協力等の対話は、国際ゴム研究会(International Rubber Study Group, IRSG)に移譲されています。

 さて、INROのような多国間協定による価格安定化スキームは今後も考え得るのでしょうか?

 まず既存の枠組みの商品協定については、各国政府が新たに検討する余地は小さいと思われます。

 例えば日本政府はJICA経由でINROに出資しましたが(2001年時点の出資比率は11.65%)、案件事後評価では「天然ゴムの価格下支えの有効性が確認された一方、JICA の収支上は元本割れ」であり、「コモディティの市場リスクを予測することは容易ではなく、ボラティリティも高い傾向にあるため、商品協定のようなコモディティの市場リスクをとる案件は避けることが望ましい」と述べています。

 加えて、現在の貿易協定は二国間や地域間の経済連携協定(EPA/FTA)が主流であり、さらに輸入国では中国が台頭し、輸出国ではベトナムやコートジボワールの生産拡大といった多様化が進んでおり、かつ主要プレイヤーが政府ではなくグローバル企業となっていることから、INROのように輸出国・輸入国が一堂に会して利害調整して価格安定化を図るということは現実的ではないと思われます。

 その一方で、近年天然ゴム価格が低位安定しており、産地国の零細農家の所得や業者の収益が圧迫され続けています。このまま市場メカニズムと各国の政策に任せることが天然ゴムのグローバル・エコシステムにとって持続可能であるのか、一考する余地はあるのではないでしょうか。

 また、特に天然ゴムトレーサビリティ確保や社会・環境保護といった分野では、全ステークホルダーの協調を可能にする新たな枠組みを構築することが成功の鍵であることは間違いないでしょう。

※次回の更新は2021年9月21日(火)頃の予定です。

【もっと知りたい方に!】
入江成雄「一次産品の理想と現実」
入江成雄「天然ゴムの価格変動(2)」
神戸ゴム取引所「46年史」
国際協力機構/国際協力総合研修所「援助の潮流がわかる本」
日本ゴム工業会「50年の歩み」
日本ゴム輸入協会記念誌「40年のあゆみ」「50年のあゆみ」
Austin Coates “The Commerce in Rubber – The first 250 years”
JICA「案件別事後評価:天然ゴム輸出途上国におけるゴム緩衝在庫拠出事業」
UNCTAD

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