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とある市場の天然ゴム先物 22

天然ゴム価格は操作できるのか ~INROの挑戦と挫折

連載 2021-09-07

天然ゴムに関する国際協定

 天然ゴム価格に対する国際協定の原点は、1976年のUNCTAD第4回総会における一次産品総合プログラム(IPC)の採択となります。この計画は、一次産品の価格安定と発展途上国の輸出所得の改善、消費国への安定した供給の保証等を目的とする国際商品協定を締結すること、そのために一次産品共通基金を設定することなどが盛り込まれており、天然ゴムはこの対象となる18品目に含まれていました。

 天然ゴムはこの決議の下で第一号として協定の締結を実現した商品となります。1979年10月に国際天然ゴム協定(International Natural Rubber Agreement, INRA)が採択され、その後、マレーシアのクアラルンプールに国際天然ゴム機関(International Natural Rubber Organization, INRO)が設立されました。

 INRAは、第一次協定が1980年10月に暫定発効され(確定発効は1982年4月)、その後、第二次協定が1988年12月、第三次協定が97年2月から発効されることとなります。

INROのプロジェクト・スキーム

出所:JICA「案件別事後評価:天然ゴム輸出途上国におけるゴム緩衝在庫拠出事業」

 ところで、国際商品協定には「①多国間契約方式」、「②輸出割当方式」、「③緩衝在庫方式」などがありますが、INROによる協定は「③緩衝在庫方式」を採用することとなります。これは一定の価格範囲をあらかじめ設定し、市場価格が一定価格以上になったときに当局が手持ち在庫を市場に放出し、逆に市場価格が一定価格以下になったときに当局が市場で商品を購入し、それを緩衝在庫として蓄積するものとなります。

 INROの価格安定化スキームについて、まず指標となる市場価格ですが、これは天然ゴム現物の四市場(シンガポール、クアラルンプール、ニューヨーク、ロンドン)で取引される3品種(RSS1、RSS3、TSR20)の1kgあたり平均価格を、一定の算式でFOBシンガポール・マレーシア価格に逆算し、これをシンガポール・マレーシアセント(協定上の仮想的な通貨、MS¢)に換算したものと定められました。

 市場介入の判断は、指標となる市場価格の5日間平均が上方(下方)介入価格を超えたとき、緩衝在庫管理官は自己の判断で緩衝用在庫ゴムの売却(購入)をすることができ、また上方(下方)介入義務価格を超えたときには、指標市場価格が介入義務価格の水準に収まるまで、緩衝在庫管理官は緩衝用在庫ゴムの売却(購入)をしなければならない、というものでした。

 この市場介入の値幅の基準となる価格(基準価格)は、市場平均値が6ヶ月間介入価格を超えたときや、緩衝在庫量の水準に従って原則自動修正され、また30ヶ月ごとに最高および最低価格が見直されるものとされました。

 また、1979年の国際天然ゴム協定に基づき、緩衝在庫量は40 万トンの通常用緩衝在庫と15 万トンの緊急用緩衝在庫の計55万トンと設定されています。これは1979年の世界の天然ゴム消費量の約14%という規模でした。

INROの市場介入基準

出所:JICA「案件別事後評価:天然ゴム輸出途上国におけるゴム緩衝在庫拠出事業」

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