とある市場の天然ゴム先物 22
天然ゴム価格は操作できるのか ~INROの挑戦と挫折
連載 2021-09-07
大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介
第5回の記事でもご紹介しましたが、天然ゴム価格は1970年代に二度のオイルショックによる乱高下を経験しました。こうした背景から、一次産品価格の長期安定化という国際的な政策志向を受け、1980年代に天然ゴム価格の安定を目的とした国際組織が設立されます。
この国際協調による天然ゴム価格への市場介入は約20年間続きましたが、今回はそうした取り組みや評価、また天然ゴム先物市場への市場介入に関する議論などをご紹介します。
一次産品に対する国際協定の変遷
国際天然ゴム価格を安定させるための協定としては、戦前にイギリスが主導した1922年のスティーブンソン計画や1934年のゴム統制協定などがありました。
これらの協定は輸出国による生産・輸出制限に限られていたこともあり、米国を含めた輸入国から大きな反発を受けるととともに、前者は協定外の国(オランダ領東インド、現在のインドネシア)による生産拡大、後者は第二次世界大戦の勃発などにより失敗に終わりました。
ちなみに、1922年にスティーブンソン計画の導入を決定したのは、当時植民地大臣であったウィンストン・チャーチルあり、導入決定の直後にロイド・ジョージ政権自体が崩壊してしまったのは何とも皮肉な話です。
戦後になると、他商品を含めて戦前の輸出国(旧宗主国)主導の市場統制が失敗したことへの反省を受け、国際商品協定は国連主導による多国間の政府間協定とし、輸出国と輸入国が平等な立場で協定に参加するという形を取るようになります。
国連における国際商品協定の一般原則は自由貿易であるものの、ある種の一次産品については、生産、貿易、価格面で特殊な困難が付随することを考慮して、それに起因する経済的不利益を回避するために政府間での商品協定締結の必要性を認めていました。これは「一次産品の価格趨勢を中心としての過度の短期的価格変動を除去もしくは緩和することを意図」するものと一般的に解釈されました。
1950~60年代になるといわゆる南北問題がクローズアップされ、「開発途上国や経済移行国が開発、貧困削減、世界経済への統合のための原動力として貿易と投資を利用できるようにすること」を目標として、1964年に国連貿易開発会議(UNCTAD)が設立されます。
このUNCTADの下、「開発途上国の実質輸出収益の動態的かつ着実な増加」のために、一時産品価格の「長期・高位安定化」が志向されていくことになります。とはいえ、結果から見れば、こうした規範が実際に協定として適用されたのは、ココアや天然ゴム、砂糖、すず、コーヒーといった一部の産品に限られました。
UNCTADの概況
出所:UNCTAD
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