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とある市場の天然ゴム先物 22

天然ゴム価格は操作できるのか ~INROの挑戦と挫折

連載 2021-09-07

天然ゴム先物市場への介入

 ところでINROによる市場介入は協定上、天然ゴムの現物市場に限定されており、先物市場は対象外となっていました。

 しかしながら、INROの第3次協定の再交渉会議(94年4月)において、欧州委員会(EC)代表が先物市場への介入を可能とする修正案を提出します。この修正案は、協定の条文に「緩衝在庫管理官はテンダーを現物で受け取ることを絶対条件として、最長2ヶ月までの先物契約を購入することができる」と追加するものでした。

 このEC代表の提案に対し、当時最も市場流動性の高い天然ゴム先物市場を保有していた日本は強く反対します。

 日本側の主張は、①INROの先物購入は受渡決済が義務付けられることから、売方による受渡決済の負担が増加するとともに、反対売買による決済が難しくなる、②東京以外の市場、特にシンガポール市場は介入を受けるだけの市場規模を持たず、逆に過度な価格変動が生じるリスクがある、③先物市場は現物市場とは異なるエコシステムであり、拙速な判断は避けるべき、というものでした。

 日本の強硬な反対もありこのEC提案に対する結論は出ず、その後の協議を経て、「コンセンサス方式(全員一致)」という条件付きで受け入れられることとなります。コンセンサス方式は日本に実質的な拒否権を認めるものですので、「EC提案を条文に追加するが、死文化させる」という妥協案を採用したといえます。

 その後、1998年のINRO理事会にて、先物市場への市場介入提案が唐突に上程されたことなどありましたが、こちらも日本が改めて反対の意を唱えたうえ、その間に協定自体が1年後に終了したこともあり、提案は自然消滅となりました。

 このようなECによる先物市場への市場介入の提案ですが、既存の市場介入が相場高騰時に機能していなかったことへの焦りや、欧州ゴム業界による価格安定への圧力、さらには欧州に天然ゴム先物市場がなかったことで取引所業界からの反対を受けない立場にあったこと、などが背景にあったものと推測されます。

 とはいえ、提案側の主張は反対派を説得するだけの合理的な根拠を欠いており、かつINROによる価格安定化スキーム自体に既に限界が見えていたことなどから、この提案が日の目を見ることはなかったでしょう。

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