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とある市場の天然ゴム先物 12

【SDGs】天然ゴム先物市場とサステイナビリティの関係

連載 2021-04-06

取引所としての考え方

 ところで前回にご紹介しましたが、天然ゴム先物市場では受渡し対象(「受渡供用品」といいます)となる天然ゴムの品質が取引所の制度として定められています。

 この「品質」について、例えばRSS先物では「国際規格に従う」と定められています。この国際規格は50年以上前に作られた天然ゴムの外形的な規格ですので、「違法な森林伐採が行われていないか」、「強制労働や児童労働によって生産されていないか」といったSDGsの観点は直接的には含まれていません。

 「それならば取引所の品質の基準にSDGsの項目を追加すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、他のSDGsに関連する取り組みと同様、実現までの道のりはそう簡単ではありません。

 1つ目の理由としては、そもそも天然ゴムのサプライチェーンにおいて「トレーサビリティを確保することが非常に難しい」ということは本稿でお伝えしたとおりです。

 それに加えて、2つ目の理由として「先物市場のエコシステム」を挙げなければなりません。

 そもそも天然ゴム先物市場で「品質」が定められているのはなぜでしょうか?

 受け渡される天然ゴムの品質が担保されていることで、買い手が安心して取引所で天然ゴムを調達できるようにする、という側面ももちろんあります。

 ですがさらに重要なことは、マックス・ウェーバーも言及しているように、そもそも市場のエコシステムが機能するためには「多くの売り手と買い手の了解の下で、対象となる商品の品質が定まっていること」が求められるからです。

 例として、天然ゴムのトレーサビリティを求める厳しい要件を先物の品質基準に加えたとしましょう。

 もしその要件を満たすことのできる生産者が少ない場合、取引所での売注文が減少することで買い手が市場で買うことが難しくなり、その結果、市場価格が実勢から離れて高騰してしまう可能性があります。

 そうした状況では次第に買い手は取引所での取引を控えることになり、買い手がいないことで売り手も注文を出しにくくなり、市場の流動性が更に減ることとなります。結果として、「売り手と買い手がいつでも売買できる」、「透明性の高い価格が市場で成立する」といった取引所の本来的な機能が損なわれることになるかもしれません。

 重要な社会インフラの1つである取引所がSDGs達成のために貢献すべきということに疑いはありません。一方で市場のエコシステムは繊細であり、制度変更によって思ってもみなかった副作用が生じて経済全体に大混乱が生じるリスクもあります。

 そこで取引所としての天然ゴム先物市場のSDGsへのアプローチとしては、ビジョンと最終的なゴールを関係者間で共有したうえで、様々なステークホルダーと協力しながら地道に取り組んでいくことが重要であると考えています。

 今回はサステイナビリティと天然ゴム先物市場の関係についてまとめてみました。次回では、海外のコモディティ市場におけるサステイナビリティへの取組み事例などについてご紹介いたします!

※次回の更新は2021年4月20日(火)頃の予定です。

【参考資料】
国際連合「国際連合憲章(日本語訳)」
国際連合「持続可能な開発のための2030アジェンダ(外務省仮訳)」
国際連合「世界人権宣言(外務省仮訳)」
IRSG, “Sustainable Natural Rubber Initiative (SNR-i)”
Max Weber, “Stock and Commodity Exchanges”
United Nations, “Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development”

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