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連載「つたえること・つたわるもの」(71)

盂蘭盆会法要での法話。愛娘の死が父を育てる、おかげさまの物語。

連載 2019-08-20

 まず、第二の伏線となった「お父ちゃん、浄土真宗でよかったね。お念仏いただいてよかったね」が意味するところは、仏教の中でも浄土教(浄土宗、浄土真宗)の重要な中心教義である「往相回向(阿弥陀さまの本願の力によって、浄土に往生し成仏するように振り向けること)・還相回向(浄土に往生し成仏したあと、阿弥陀さまの本願の力によって、再びこの世に還って迷える人びとを救うように振り向けること)」である。もちろん、仏教の各宗派によって、それぞれ救いの味わいがあるにちがいないのだが、松岡さん夫妻は、愛娘の唯ちゃんが亡くなったあと、間違いなくお浄土に救い摂られる(往相回向)という確信と、お浄土で仏さまとなった唯ちゃんが再びこの世(此岸)に還ってきて、人びとを救うはたらきとして顕れる(還相回向)という希望をいただいた、その悦びを素直に表現した言葉だったのではないだろうか。

 そして、第一の伏線となる主治医の言葉には、もうひとつ、第三の伏線がある。それは、唯ちゃんが亡くなったあと、主治医から「ご遺体を解剖させていただけませんか」という依頼を受けたことである。もちろん「亡くなった娘の体にメスを入れるのは可哀そうだ」と、松岡さんは思った。主治医に「娘の体を解剖することで、メチルマロン酸血症患者の治療に役に立ちますか」と聞くと、「もちろん、その結果は必ず今後の治療に生かします」という答が返ってきた。その瞬間、松岡さんは「おかげさま」という言葉を思い浮かべた。娘の病気は数年前まで乳児突発死症候群、つまり原因不明の難病としかわかっていなかった。

 しかし、この病気で亡くなった子ども患者たちの検査データ、解剖所見データがもとになって、メチルマロン酸血症という先天性代謝異常の難病であることがわかり、さまざまな治療法が開発されたのだから、もしかしたら、娘の解剖所見データによって、5歳6カ月しか生きられなかった患児が6歳まで生きられるようになるかもしれない。あるいは、10歳まで生きられるようになるかもしれない。娘が5歳6カ月まで生きられたのは、それまでに亡くなった患児たちの検査データ、解剖所見データの「おかげ(さま)」だったのだ。それが、どの患児だったのか、その顔も名前も、私たちは知らない。その見えない「おかげさま」によって生かされていた娘のいのちだったのだと、そのとき、松岡さんは気づいたという。

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