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連載「つたえること・つたわるもの」175

エンゼルス(天使たち)から、ドジャース(ブルックリンの子ら)へ。

連載 2023-12-26

出版ジャーナリスト 原山建郎
 ことしは、今春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で、みごと3回目の優勝を果たした日本チーム(侍ジャパン)の立役者の一人、今期のMLB(メジャーリーグベースボール:米国大リーグ)で日本人初のホームラン王に輝いた大谷翔平選手が、6年間在籍したロサンゼルス・エンゼルス(アメリカンリーグ)から、FA(フリーエージェント)権を行使して、同じ西部地区のロサンゼルス・ドジャース(ナショナルリーグ)に移籍することになり、その契約金が10年総額で史上最高の7億ドル(約1015億円)だというので、世界中で大ニュースとなっている。
したがって、WBC決勝戦直前、大谷翔平選手がロッカールームで発した「憧れるのをやめましょう」が、『第40回「現代用語の基礎知識」選 2023ユーキャン新語・流行語大賞』の候補30語(11月2日発表)の二番目にノミネートされた時点で、これが年間大賞の大本命と思われていた。ところが、栄えある年間大賞には38年ぶりに日本シリーズを制した阪神タイガース、岡田彰布監督の「アレ(A.R.E.)」が選ばれ、やはりWBC優勝に貢献したラーズ・ヌートバー選手(セントルイス・カージナルス)の「ペッパーミル・パフォーマンス」がトップテンに入ったのに、あろうことか大谷選手の名言「憧れるのをやめましょう」は選外となった。これこそ、想定外の「あれっ!(What?≒A.R.E.)」である。

 ここにきて、やはり今春のWBCで活躍したチームメイト、山本由伸投手(オリックス・バッファローズ)もまた、来春から大谷選手と同じロサンゼルス・ドジャースでプレーすることになった。山本の契約金は12年総額で3億2500万ドル(約465億円)。ちなみに、ポスティング・システム(入札制度)を利用しての移籍による、オリックスへの譲渡金は約5000万ドル(約70億円)が支払われるという。

 今回のコラムでは、多くの日本人選手が所属するMLBの球団名の由来と変遷について考えてみよう。
まず、MLBの歴史をひもとくと、1850年代後半から1870年にかけて、アメリカ北東部を中心に誕生したアマチュア野球リーグNABBP(National Association of Base Ball Players:全米野球協会)を母体として、1869年に結成された「シンシナティ・レッドストッキングス(Cincinnati Red Stockings)」が初のプロ野球チームとなる。その後、いくつかのメジャーリーグを経て、現在のナショナルリーグ(1876年:明治9年~)とアメリカンリーグ(1901年:明治34年~)へと発展していった。

 ちなみに、日本のプロ野球の誕生は1934(昭和9)年11月に来日したベーブルース選手ら米国大リーグ選抜チームが全日本チームとの16戦すべてに勝利し、圧倒的な力の差を見せつけられた全日本チームのメンバーを中心に、同年12月、大日本東京野球俱楽部(現在の読売ジャイアンツ)が誕生。それをきっかけに、2年後の1936(昭和11)年には、東京巨人軍、大阪タイガース、名古屋軍、東京セネタース、阪急軍、大東京軍、名古屋金鯱軍の7球団により、日本職業野球連盟(日本野球連盟)が創立された。戦後間もない1949(昭和24)年、野球連盟がセントラルリーグとパシフィックリーグに分かれ、両リーグを統括する日本野球機構(NPB)が発足。現在、セ・パ両リーグ合計16球団となっている。

 2006年から始まったWBC(トーナメント戦)では、これまで行われた国・地域別対抗戦で、2006年、2009年、そして2023年と、5回のうち3回の優勝をもぎ取り、世界一の実力を証明する快挙を成し遂げた。MLBの日本人選手に対する評価はこれで一気に高まり、冒頭で紹介した大谷翔平選手の1000億円(10年間総額)超の大型契約、山本由伸投手の約500億円(12年間総額)の契約が実現した。

 さて、現役で活躍する日本人メジャーリーガー、主な選手と現在の所属球団は、以下の通りである。
大谷翔平(投手・外野手) ロサンゼルス・ドジャース/☆山本由伸(投手)ロサンゼルス・ドジャース/☆吉田正尚(外野手)ボストン・レッドソックス/☆菊池雄星(投手)トロント・ブルージェイズ /藤波晋太郎(投手)ボルチモア・オリオールズ/☆前田健太(投手)ミネソタ・ツインズ/☆千賀滉大(投手)ニューヨーク・メッツ/☆鈴木誠也(外野手)シカゴ・カブス/☆ダルビッシュ有(投手)サンディエゴ・パドレス 

 また、かつてメジャーリーグで活躍し、引退した3人のレジェンド(入団→移籍履歴)は、それぞれ、最初に入団したチームの印象が強いが、実際にはいくつもの球団で多くの実績を残している。

イチロー(外野手)シアトル・マリナーズ(2001年)→ニューヨーク・ヤンキース→マイアミ・マーリンズ→シアトル・マリナーズ(2019年)/★野茂英雄(投手)ロサンゼルス・ドジャース(1995年)→ニューヨーク・メッツ→ミルウォーキー・ブルワーズ→デトロイト・タイガース→ボストン・レッドソックス→ロサンゼルス・ドジャース→タンパベイ・デビルレイズ→カンザスシティ・ロイヤルズ(2008年)/★松井秀樹(外野手)ニューヨーク・ヤンキース(2003年)→ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム→オークランド・アスレチックス

 さて、MLBの球団名の由来と変遷について、興味深い情報をピックアップしてみよう

ロサンゼルス・ドジャース(Los Angeles Dodgers)
1883年の創設。1957年まで東海岸のニューヨーク(ブルックリン区)にあった球団で、当時はブルックリン・ドジャース(Brooklyn Dodgers)と呼ばれていた。現在では高架鉄道と地下鉄が主な都市交通の手段だが、かつて同地区には路面電車(BMT:Brooklyn–Manhattan Transit)が多く走っており、「路面電車を避ける人たち(子ら)」という意味で「ドジャース(Dodgers)」と呼ばれていた。投げられたボールを避ける競技、ドッジボール(dodgeball)の語源でもある。1958年に現在の西海岸のロサンゼルスに本拠地を移して、球団名をロサンゼルス・ドジャースに変更した。ちなみに、同じ1958年、やはりニューヨーク・ジャイアンツも西海岸のサンフランシスコに本拠地を移して、サンフランシスコ・ジャイアンツ(San Francisco Giants)に変更している。

ロサンゼルス・エンゼルスLos Angeles Angels
1958年にニューヨークから西海岸(カルフォルニア州)に本拠地を移したロサンゼルス・ドジャース、サンフランシスコ・ジャイアンツにつづいて、1961(昭和36)年、ロサンゼルスに創設された球団。球団名は、かつてスペインが統治していたロサンゼルスの地名に由来している。スペイン語で「天使(英語はangel)」を表すangel(スペイン語でアンヘル)の複数形angelesに、定冠詞のlos(スペイン語でロス。英語はthe)がついた「Los Angeles(Los Angels)」は、英語では「天使の街」の意味である。つまり、「Los Angeles Angels」は「天使の街(City of Angels)の天使たち(the Angels)」となる。
チーム名は、ロサンゼルス・エンゼルス(1961年~)→カリフォルニア・エンゼルス(1966年~)→アナハイム・エンゼルス(1997年~)→ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム(2005年)→ロサンゼルス・エンゼルス(2006年~)として現在に至る。2002年のワールドシリーズを初制覇した際には、日本人選手の新庄剛志(現在はビッグボスの愛称で親しまれる、北海道日本ハムファイターズ監督)が在籍していた。

シアトル・マリナーズ(Seattle Mariners)
1977年創設の球団。太平洋岸北西部最大の港町、シアトル(開拓移民と友好的だった原住民の酋長の名前を冠した)を本拠地とするシアトル・マリナーズの、マリナーズ(Mariners)は、水兵や船乗りを意味する。イチロー(鈴木一郎)をはじめ、日本人の所属選手が歴代11人(イチロー、佐々木主浩、長谷川滋利、木田優夫、城島健司、川崎宗則、岩隈久志、青木宣親、菊池雄星、平野佳寿)と最多の球団である。

シカゴ・ホワイトソックス(Chicago White Sox)/☆ボストン・レッドソックス(Boston Red Sox)
1901年創設の「シカゴ・ホワイトソックス」は、前身の「シカゴ・ホワイトストッキングス」がライバルの「シンシナティ・レッドストッキングス」に対抗して白い靴下を履いたことに由来する。その後、「シンシナティ・レッドストッキングス」はボストンに移転し、名称を「ボストン・レッドストッキングス」に変更するが、さらにミルウォーキー、アトランタに移転し、現在の「アトランタ・ブレーブス」となる。

 これに代わって、「ボストン・レッドソックス」が誕生する。1901年創設当時の球団名は「ボストン・アメリカンズ」だったが、当時のライバル球団「シカゴ・ホワイトソックス」との差別化を狙って、1908年に「ボストン・レッドソックス(赤い靴下)」に名称を変更したものだという。

 大谷翔平選手の背番号は、ジョー・ケリー投手が譲ってくれた「17番」に決まった。そのお礼に、ケリーの妻、アシュリーさんに新車のポルシェ(911ターボS:3279万円)をプレゼントしたという。また、「野球しようぜ!」のコメントつきで、ジュニア用グラブ3個ずつ、日本の小学校(約2万校)全てに贈られる「ジュニア用グラブ3個ずつ」が、すでに届き始めたといううれしいニュースが流れている。

 ロサンゼルス・エンゼルス(天使たち)から、ロサンゼルス・ドジャース(ブルックリンの子ら)へ舞台を移した、われらが大谷翔平選手にとって、2024年がよい年でありますよう、心から祈っている。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)

 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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