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連載「つたえること・つたわるもの」179

ゆかいな日本語――逆さことば、しりとり、あたまとりをたのしむ。

連載 2024-02-27

出版ジャーナリスト 原山建郎
 前回のテーマは「気になる日本語――同音異義語、異字同訓をダジャレ、謎かけで遊ぶ」だったが、今回は「ゆかいな日本語――しりとり、あたまとり、逆さことばをたのしむ」である。

 先週、市川市立図書館から借りてきた、『日本語あそび学――平安時代から現代までのいろいろな言葉あそび』(稲葉重勝著、今人舎、2016年)、『回文 ことば遊び辞典』(上野富美夫編、東京堂出版、1997年)、『ことば遊びの楽しみ』(阿刀田高著、岩波新書、2006年)、『ぞうからかうぞ』(文・石津ちひろ、絵・藤枝リュウジ、BL出版、2003年)/『ことばあそびえほん』(石津ちひろ・文、飯野和好・絵、のら書店、2004年)などの図書資料を参考に、日本語の〈ことば遊び〉をトコトンたのしんでみよう。

◆「しりとり、あたまとり」で遊ぶ
 まず、「しりとり、あたまとり」から――『日本語あそび学』には、「初級編1 しりとりの魅力」【ことばの最後の文字からはじまることばで次につなぐ:3文字言葉しりとり(つくうし)/テーマしりとり(生きもの:からす→すずめ→めだか・食べ物(チョコレート→トマト→とんかつ)など/漢字しりとり(電車→車外→外見)】と「初級編2 しりをとらないしりとり」【最初の文字が次のことばの最後の文字になるようにつなぐ:あたまとり(える→→すず)/意味とり(さとう→は白い・白いは→うさぎ→は跳ねる・跳ねるは→かえる)】などが載っている。
さまざまな「しりとり・あたまとり」の中から、ここ数日、Web検索でチェックした「二字熟語しりとり」、「四字熟語しりとり」、「漢字あたまとり」、もうひとつ「ぐるっと二字熟語」も見てみよう。

「二字熟語しりとり」
☆用意→意見→見本→本気→気温→温水→水上→上下→下草→草花→花弁→弁当→当番→番号
「四字熟語しりとり」
☆一期一会→会心一笑→笑顔満開→開眼大悟→悟性概念(※直観に与えられた感覚内容を統一・総合して、判断の形にまとめる悟性の思惟形式)→概念芸術(※1960年代以降に現れた現代美術の一傾向)
「漢字あたまとり」
☆父親→神父→女神→海女→深海→水深→雨水→豪雨→豪傑→傑物→物理→理科→科学→学者
「ぐるっと二字熟語」(「二字熟語しりとり」の最初の漢字と最後の漢字が同じで、ぐるっと循環)
学→学問→問題→題名→名作→作文→文書→書写→写真→真実→実行→行動→動物→物風→風雨→雨天→天体→体重→大気→気流→流水→平番→番茶→茶色→色紙→紙面→面会→会話→話題→題名→名声→色紙→紙面→面談→談話→話題→題名→名前→→前転→転校→校

◆「逆さことば(回文)」で遊ぶ
次は、上(右)から読んでも・下(左)から読んでも意味が通じる「回文(逆さことば)」。70年ほど前(私が小学生だったころ)、「たけやぶやけた/まさかさかさま/ねこのこね/たしかにかした/このきにきのこ」などで、遊び仲間と大いに楽しんだ。「手袋(てぶくろ)の反対ことばは?」と聞かれて、「ろくぶて(六ぶて)」と答え、六回たたかれたことは、いまも懐かしい思い出のひとつである。

 『日本語あそび学』に、「回文のつくり方」がわかりやすく解説されている。

①ある言葉と、その言葉をさかさから読んでも意味の通じる言葉のセットをさがす。
あさ⇔さあ/いるか⇔かるい/わたし⇔したわ
②見つけた言葉をつなげて、意味のとおる文にする。そのままつなげる
さあ+、(読点)+あさ→さあ、あさ/助詞でつなげる:いるか+は+かるい→いるかはかるい/わたし+が+した→わたしがした
③さかさ言葉や回文のあいだ、または、別のさかさ言葉や回文になる言葉をつけくわえる。
あいだにつけたもの:わたし+いたいいたい+したわ(わたしイタイイタイしたわ)/前後につけたもの:この→こどもどこ←のこ(この子どもどこの子)/あいだと前後につけたもの:この→こども+にわとりとことりとわに+どこ←のこ(この子どもとニワトリとことりとワニもどこの子)

(『日本語あそび学』「回文とは」59ページ)

この「回文のつくり方」(基本と応用)を頭に入れた上で、以下につづく回文をたのしんでみよう。
その昔、平安時代や江戸時代には、和歌(やまとことば=和語のみを用いて詠む短歌)の回文(怪文・快文?)が流行ったころの豊かな教養、洒落たウイットに富んだ「ことば遊び」を味わってみる。

むらくさに くさのなはもし そなはらば なぞしもはなの さくにさくらむ(むら草に 草の名はもし 備はらば なぞしも花の 咲くに咲くらむ)(※平安時代の歌人、藤原清輔が『奥義抄』で紹介した古歌)
(『日本語あそび学』「昔の回文」61ページ)

また、『回文 ことば遊び辞典』にあった、〈三振・併殺・代打〉を題材にした「野球」の回文。

☆新進 散々 三振し。(しんしん さんざん さんしんし)/併殺か タッチとちった 喝采へ(へいさつか たっちとちった かっさいへ)/失策も 代打次第だ 黙殺し(しっさくも だいだしだいだ もくさつし)/タッチと過信 ふと足出して 後憤死か とちった!(たっちとかしん ふとあしだして あとふんしか とちった)    
(『回文 ことば遊び辞典』「野球」185・186・187ページ

 ここで野球ダジャレをひとつ。先週、ドジャースの春キャンプで、「大谷翔平選手の第二打席は、二塁ゴロでした」と報道された。正しい英語は「グラウンド・ボール(ground ball)」だが、オノマトペ(擬音語)で球が転がる「ゴロゴロ」からきた日本語「ゴロ」のほうが、英語よりも「語呂」がいい。

 また、同書に載っている〈回文作り日本一〉島村佳一さんが作ったローマ字の「野球もの」回文・倒言(反転させて読むと別の意味になるような文句)がすごい。もうひとつ、「夫婦愛もの」回文もつける。

”Utte goro,gettu”(打ってゴロ、ゲッツー)/”Uhuhu.Aisiau huhu”(うふふ。愛しあう夫婦)
(『ことば遊びの楽しみ』第6章「回文という怪文」123ページ)

閑話休題。再び、〈相撲・陸上競技・水泳・ゴルフ・柔道・ヨット〉の「スポーツ」回文である。

☆寄ると押し上げ 足を取るよ。(よるとおしあげ あしをとるよ)/血気多々 強い相四つ 叩きつけ(けっきたた つよいあいよつ たたきつけ)/出直し。小結暗い楽日済む 腰を撫で(でなおし こむすびくらいらくび こしをなで)/☆段々と跳んだ。(だんだんと とんだ)/三段跳び 伸び伸び跳んだんさ。(さんだんとび のびのびとんだんさ)/☆絶対 背立つぜ。(ぜったい せいたつぜ)/水泳か 波乗りの皆 快泳す(すいえいか なみのりのみな かいえいす)/☆や、あかん、バンカアや。(やあかん ばんかあや)/突破とショット 強しとパット。(とっぱとしょっと つよしとぱっと)/背負い投げにも逃げない 押せ(せおいなげにもにげない おせ)/皆乗るは ヨット一つよ 春の波(みなのるは よっとひとつよ はるのなみ)
(『回文 ことば遊び辞典』「相撲・陸上競技・水泳・ゴルフ・柔道・ヨット」190~196ページ)

 子ども向け絵本、『ことばあそびえほん』の「さかさまことば(回文)」は、飯野さんのかわいいイラストとセットでたのしめる回文絵本である。あんまりよくできているので、「ならべかえことば(※ことばや単語の文字を並び替えて、別の意味のことばや単語を作る)」も、おまけにつけよう。

☆ありだくだりあ(アリ抱くダリア)/かいこのこいか(カイコの恋か?)/きすするすすき(キスするススキ)/だんごむしむごんだ(だんごむし、無言だ)/ねこはいるまるいはこね(ネコ入る丸い箱ね)
☆ひなまつり(ひな祭り)→ひまなつり(ひまな釣り)/こどものひ(子どもの日)→ひものどこ(干物どこ?)/いなかのすいか(田舎のスイカ)→かいすいのなか(海水の中)


(『ことばあそびえほん』「さかさまことば」4~16ページ、「ならべかえことば」25~35ページ)

ここで、さきに紹介した島村佳一さんの回文(俳句風、短歌風、長めの散文詩)を読んでみよう。

☆都心年始と(としん ねんしと)出る初春で(でる はつはるで)/長閑な門の(のどかな かどの)松に子に妻(まつに こに つま)/ぼうぼうぼ(ぼうぼうぼ)汽笛(きてき)遠く聞く音(とおくきくおと)/遥か光るは(はるかひかるは)白帆らし(しらほらし)ヨット一つよ(よっとひとつよ)抜き行きぬ(ゆきぬきぬ)/見よ逆さ下から片し 逆さ読み(みよさかさしたからかたし さかさよみ)
☆大活躍泣くよ。トスだけか、早いが気だるげなバテた二塁手。至宝と言え、謹慎したが、箍がガタガタ。新進気鋭 投・捕手、強いるに立てば投げるだけ。外野は駆け出すと良くなく、厄介だ。(だいかつやくなくよ とすだけか はやいがけだるげな ばてたにるいしゅ しほうといえきんしんしたが たがががたがた しんしんきえいとうほしゅ しいるにたてばなげるだけ がいやはかけだすとよくなく やっかいだ)

(『回文 ことば遊び辞典』「各句回文詩・長文」240~245・253ページ)

「漢字かな交じり文」の日本語だけでなく、たとえば、「アルファベット」で書く英語などに回文はあるのだろうか? 早速、いくつかWeb検索で調べると、次のような英語の回文を見つけた。

☆Nurses run!(看護婦さんたちが走る!)/Salt an atlas.(地図帳に塩をかけろ)/Borrow or rob?(借りる?それとも奪う?)/Was it a cat I saw?(私が見たのはネコだったか?)

 ところが、同じ「逆さことば」でも、日本語と英語では、文字(漢字・かな文字/アルファベット)の構成が根本的に異なると、かつて国会図書館司書という経歴のある作家・阿刀田高さんは書いている。

ムダ・ムイア・ムダマ

 ところで回文もまた日本語の特質と大きく関わっている。日本語はかな文字で綴ることができて、しかもそのかな文字は母音と子音に一つ一つ対応している。これが回文を成立させる重要なポイントである。

 逆の例を挙げたほうがわかりやすい。英語では(ほとんど実例を見ないのだが)

”Madam,I’m Adam”

が回文になっている。しかし、この文章を構成する一つ一つの文字、つまりM、A、D……が一つ一つの音に対応しているわけではない。“マダム、アイム・アダム”という音声を逆にして“ムダ・ムイア・ムダマ”は意味をなさないし、回文にもならない。回文は文字対応の遊びであり、それが音声で発しても回文になるところが日本語の特徴なのだ。欧米語ではほとんど不可能の領域と言ってよいだろう。

(『ことば遊びの楽しみ』第6章「回文という怪文」116~117ページ)

 さきに、平安時代の回文(和歌)を紹介したが、江戸時代には「庶民のことば文化」として定着した。
 阿刀田さんは、同書の「あとがき」に、「ことばは民族の文化そのものであり、民族のアイデンティティに直結している。母国語への関心、知識、愛情が薄れたら、その民族の文化性は危うい」と警鐘を鳴らしているが、いま私たちができることは、正しい日本語の使い方の指導などではない。平安時代や江戸時代に〈ゆかいな〉花を咲かせた、たとえば「しりとり・あたまとり」「回文(逆さことば)」などの〈ことば遊び〉を、老い(昭和・平成)も若き(令和)も一緒になって〈たのしむ〉ことではないだろうか。

ずいぶんと長い回文もあって、古来よく知られているのが、
〝長き夜のとをの眠(ねぶ)りのみな目醒(めざ)め波のり舟の音のよきかな〟
七福神の絵にこの歌をそえ、それを正月二日、布団の下に敷いて初夢を見ると幸運に恵まれると信じられていた。詠み人知らず。十五、六世紀の作と推定されている。かな遣いは古い時代のものであり、濁点の有無
(※昔のかな文字に濁点や半濁点はなく、「ねふり」「めさめ」も清音のみ)に弱点がないわけではないが(これは一般的に許容されている)、五七五七七、三十一文字がみごとに反転している。歌の意味は〝とをの眠り〟の一句が曖昧で〝遠の眠り〟(深い眠り)あるいは〝疾うの眠り〟(早い眠り)の意と考えられているが、定説はない。もともと七福神を想定して作られたわけではないが、江戸時代以降七福神の風俗と結びついて広く民間に伝承されたため回文歌の代表のような立場を占めるようになった。
(『ことば遊びの楽しみ』第6章「回文という怪文」114~115ページ)

 白雪の消ゆる春のか駒しばし馬子が乗る春雪の消ゆらし(※毛吹草追加下、廻文之狂歌)/惜しめども ついにいつもと ゆく春は 悔ゆともついに いつもとめじを(※鎌倉時代の歌論書『悦目抄』などに収載)/今朝たんと飲めや菖蒲(あやめ)の富田酒(とんだざけ)(※宝井其角の俳句)/桜木のもとにみなはや今朝(けさ)も来も酒や花見に友の気楽さ(※大福窓笑寿が江戸時代に出版した『回文歌百首』に収載)
(『ことば遊びの楽しみ』第6章「回文という怪文」115ページ)

日本語の「しりとり・あたまとり」、「回文」には、〈ことば遊び〉のふかい味わいがある。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)

 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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