連載「つたえること・つたわるもの」(97)
『ジュマンジ』で響く太鼓の音、いのちに届く太古の鼓動。
連載 2020-09-08
すでに紹介したように、私たちが初めて体感する音は、胎内で聴いた母親の心音(心臓の鼓動)、快いツービートのリズムである。ちなみにジャズはフォービート、ロックはエイトビートだが、その早いリズムは心臓の鼓動を何倍にも高めて、いやが上にも人々を興奮状態に導くと考えられている。
私たちは、音(振動音、音の波)を二つのルートでとり入れている。
一つは外耳から内耳を経由する鼓膜の振動による「気導」、いわゆる「耳で聞く」ルートである。
もう一つは頭蓋骨を通して内耳に響きが伝わる「骨導」、これはつまり「骨で聴く」ルートである。近年、こめかみ付近に押しあてて直接内耳(聴覚神経)に到達させて音を伝える、骨伝導式ワイヤレスイヤホンやヘッドホンが話題になっているが、これらは「骨導」体感による伝音である。
グレゴリア聖歌の詠唱を復活させて、病んだ修道僧を健康に導いた耳鼻咽喉科医のアルフレッド・トマティス医師は、『音はなぜ癒すのか』(ミッチェル・L・ゲイナー著、上野圭一訳、無名舎、2000年)のなかで、胎児の耳が完全な成長をとげる妊娠4カ月半よりも、もっと早い時期に聴覚が始まるとして、「羊水のなかにいる胎児は超高音の世界でイメージをつくっている」と考え、胎児のからだは母親の鼓動を体感する受信アンテナそのものだと述べている。
「胎児をつつんでいる音の宇宙は、ありとあらゆる種類の音質が織りなす、きわめて豊かな宇宙である。…… そこにははっきりと母親の存在を示す声がきこえてくる。…… ひときわ特徴のある、暗号化されたノイズである」
それにしても、なぜなのか? トマティスはかんがえた。人間はなぜ声や言語を通じてコミュニケートしたいという欲求に駆り立てられるのか? その問いにたいするかれの答えは、人間の意識の本質にかかわる深遠なものだった。「人体の構造そのものが、つねにその真の実在をあらわにしながら自己表現してやまない宇宙の、一種の受信アンテナなのである。人間がそこに放りだされる先は広漠たる環境であり、あらゆるものが顕現し、すべてが現象学的な解答として登録され、底知れぬ実在が真に明示する世界である。……わたしの好みのいいかたをすれば、ようするに、しゃべるのは神だけであり、人間は神のメッセージを――じつに不器用に――人間のことばに翻訳するために存在しているということなのだ」
(『音はなぜ癒すのか』113ページ)
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