連載「つたえること・つたわるもの」(97)
『ジュマンジ』で響く太鼓の音、いのちに届く太古の鼓動。
連載 2020-09-08
出版ジャーナリスト 原山建郎
テレビのBS放送で、懐かしいロビン・ウイリアムス主演の映画『ジュマンジ』とその20年後を描いた続編『ジュマンジ/ウエルカム・トゥ・ジャングル』を何篇かつづけて観た。これは「ジュマンジ」(双六形式のボードゲーム)のサイコロを振ることで始まる奇想天外な冒険物語だが、キックオフ(予兆)は「ポココ、ポココ……」と聞こえてくる太鼓である。その音色には、どこか懐かしい太古の鼓動(ビート)がある。
太鼓の音は、耳(鼓膜)で聞くというよりは、からだ全体で聴く、からだの骨に共鳴する音を感じる。それは複雑なメロディーラインを奏でるものでなく、むしろ単調なリズムの繰り返しであればあるほどよい。「太鼓は心臓の鼓動である」ともいわれるように、太鼓の音にはかつて母胎という揺り籠(安全な羊水のなか)で聴いた「母親の心音(心臓の鼓動)」の原記憶を呼び覚ましてくれるのだろう。
太鼓といえば、かつて東京・浅草の太皷館(和太鼓の専門店・宮本卯之助商店4階)を訪れて、同館にコレクションされている世界の太鼓を、次々に試し打ちをしてみたことがある。日本の祭りといえば、「ドーンドン」と下腹に響く和太鼓特有の太い音色がおなじみだが、西アフリカの「バンディケ(アイボリーコースト)」、「アジャラ(トーゴ)」を叩いてみたら、天まで届くような、高く澄んだ音がした。
いちばん面白かったのは、高音と低音を出す、大小二つの太鼓で伝えるメッセージを使い分けて、祭事や戦争では電話や電報の役目を果たす「トーキングドラム(中央アフリカの通信用太鼓)」である。昼間で6~8キロメートル、夜間なら9~10キロメートルも届くそうだが、これを狼煙のように何カ所もリレーしながら、160キロメートルも離れた仲間への伝言をするのだとか。
本来、「耳を澄ます」の意味は、鳥の鳴き声や風の吹く音にまじって届く、かすかな音(自然の声)を聴きとることである。しかし、耳を聾する大都会の喧騒はあらゆる声や音を押しつぶす。そこで、ヘッドホンで周囲の騒音をさえぎり、好きな音楽をかける手だては現代人のささやかな抵抗なのだが、これは自分の耳を澄ませて「聴きとる」音ではなく、与えられた「聞こえる」音、人工的に変換された機械音なのである。
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