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連載「つたえること・つたわるもの」(97)

『ジュマンジ』で響く太鼓の音、いのちに届く太古の鼓動。

連載 2020-09-08

 太皷館コレクションの説明文には、そのほとんどが呪術や神楽(かぐら)など宗教的な意味合いをもつと書かれている。つまり太鼓の音は、神の降臨を示す「音連れ(おとづれ、訪れ)」であり、雷神の雷鳴(音声)であり、人々をトランス状態(神がかり)に導くホワイトノイズ(快い音の響き)なのだ。

 ちなみに、やまとことばの「かみなり(雷)」は「かみ+なり(神・鳴り)」であり、田畑に恵みの雨をもたらす農業神の「おとづれ」を告げる「ひかり(雷光)」と「おと(雷鳴)」のサインである。

 『全訳読解古語辞典 第五版』(小池清治編集、三省堂、2017年)で「いなづま(稲妻、電)」を調べてみると、「稲の夫(つま)」の意という語釈のあとに「古来、雷の発生する時期が稲の穂の開花の時期と重なっているところから、いなびかり(稲光)が稲の結実生長にかかわっていると考えられていた」と説明されている。「ゴロゴロ…」と雷鳴をとどろかし、人間のおへそが大好きな「かみなりさま」は、鬼のような姿でトラの皮のふんどしを絞め、輪形に重ねて背負った太鼓を打ち鳴らす雷神(なるかみ:鳴る神)のことである。

 生命科学者の柳澤桂子さんは、高著『いのちとリズム』(中公新書、1994年)の副題に「無限の繰り返しの中で」と添えているが、「天体の運行(宇宙のリズム)」と「私たちのいのち(生命のリズム)」とをシンクロナイズ(同時性をもつこと)させる、時間的あるいは空間的な「繰り返し現象」こそが、私たちが生きていく上での安心感や快感をもたらすのではないかと述べている。

 母親が赤ちゃんの背中をおなじリズムでたたくとき、なぜ赤ちゃんは安らぐのであろうか。(中略)
 三、三、七拍子の応援の拍手に、なぜ私たちの心は踊るのであろうか。なぜ激しい太鼓のリズムに陶酔状態になるのであろうか。この問に対する答えを得るには、脳の科学の進歩を待たなければならないが、リズムという一つの現象が生命現象といかに深くかかわり合っているか、そして、それが宇宙の進化、生命の進化の過程で組み立てられてきた秩序と、いかに深いつながりをもっているかということに想いを馳せてみていただきたい。
                   
(『いのちとリズム』187ページ)

 私たちのからだに目を向けると、心臓は一定の感覚で打ちつづけ、肺は一定の感覚で空気を吸ったり吐いたりしている。夜がふけると眠り、朝には目が覚める。赤ん坊は成長し、子供は大人になりやがて年をとって死ぬ。この過程も生殖細胞を通して繰り返されている。
 さらに私たちは韻を踏んだ詩を読むことに快感をおぼえるし、リフレインをうっとりとして繰り返す。行進曲のリズムに心は踊り、太鼓のリズムは私たちを陶酔させる。それは麻薬にも匹敵する強さをもって、私たちを快感に引きずり込むのである。

(『いのちとリズム』194~195ページ)

 ことしは新型コロナ禍で秋祭りが中止となり、お目当ての太鼓を直接聴くことはできないが、せめて「秋祭り・太鼓」で検索したユーチューブで、各地の「秋祭り太鼓」の力強い音色を楽しんでみたいものだ。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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