連載「つたえること・つたわるもの」(94)
免疫力を下げる〈三悪人〉――冷中毒、口呼吸、骨休め不足。
連載 2020-07-28
◆エコノミークラス症候群、最大の原因は「骨休み不足」だった
「エコノミークラス症候群」とは、海外旅行などで飛行機に搭乗し、長時間同じ姿勢でいるときなどに発症する旅行者血栓症(血管が詰まる病気)のことで、台風などの災害時に自家用車で数日間避難生活を過ごした被災者にも同じような症状が起こることが知られている。その原因の一つに、私たちの筋肉の動き(緊張)や血液の働き(血圧)がある。私たちのからだはつねに緊張しているが、唯一、ゆるむ(弛緩)時間が「寝ているとき」である。しかし、それは「重力の解除(身体内の位置のエネルギー差をゼロにする)」が可能な「寝ているとき」の姿勢の問題である。たとえば、エコノミークラスで長時間座ったままでは、どんなにぐっすり眠っても疲れがとれない。これは、座位でいえば足の先と頭とでは、位置の差が100cmはあるからだ。西原医師のホームページ(西原ワールド)には、次のように書かれている。
ヒトの血圧は正常の場合頭部が常時90mmHgで、心臓部が立位、座位、臥位でそれぞれ130、110、90となります。位置のエネルギーゆえにぐっすり眠って骨格筋肉がゆるんでも、座位では血圧が110になるために心臓ポンプが休まりません。こうなると体中の細胞のリモデリングがうまくいかなくなります。それで座って眠っても疲れるばかりなのです。こうして、ときにエコノミークラス症候群(長い時間、狭い座席に座っていることによって深部静脈に生じた血栓が、肺に飛んでおこる肺血栓症)がおこります。
つまり、寝るときの姿勢を、大地と平行(位置の差を限りなくゼロ)にすることで、全身(骨や筋肉、血液の流れ)を完全にゆるめることができる。これが本当の意味での「骨休め」である。「骨休め」には、もうひとつ重要な役割がある。昔から「寝る子は育つ」と言われてきたが、私たち大人もまた「寝ている間に育つ」ことがわかってきた。この「育つ」とは、細胞の新陳代謝(英語でリモデリング)のことである。
ふたたび、「西原ワールド」の解説を読んでみよう。
重力作用のもとに立位・座位ではたらいている間は、細胞呼吸で産生するエネルギーで骨格筋が身体を支えるために、リモデリングの中心となる血液細胞はもとより血管から筋肉、神経などあらゆる細胞の新生が止まります。骨休めをしてはじめて骨髄造血系のリモデリングの遺伝子が発現します。一日の疲れを回復するには横臥して身体を水平に保ち位置のエネルギー差をゼロにして筋肉の力を解放しなければ、新皮質の筋肉を支配する神経細胞の遺伝子のはたらきをオフにすることも、体細胞のリモデリングに必要なレベルまで血圧を下げることもできません。
今夏の免疫力アップ大作戦では、次の3つを実行することが大切である。
①×冷え中毒→○腸を温める、②×口呼吸→○鼻呼吸にする、③×骨休め不足→○大地と平行に寝る
【プロフィール】
原山 建郎(はらやま たつろう)
出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員
1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。
2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。
おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。
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