連載「つたえること・つたわるもの」(94)
免疫力を下げる〈三悪人〉――冷中毒、口呼吸、骨休め不足。
連載 2020-07-28
〈からだ〉の大敵=冷え中毒・口呼吸・骨休め不足。
◆「夏の冷え性」と「冷え中毒」にご用心。
班目健夫医師(青山・まだらめクリニック院長)が提唱する〈免疫湯たんぽ療法〉は、「からだを温めれば、リンパ球が増える」という考え方に基づいて、足の裏や腋の下を湯たんぽで温めることで「リンパ球の数が増えて、免疫力がアップする」家庭療法である。冷え性というと女性の持病、冬の寒い時期を連想するが、夏の冷え性、男性の冷え性も少なくない。
汗かきの人には低体温症(からだが冷えている)が多い。からだに汗のもと(水分)を多く含む汗かきの人は、常に濡れた肌着を着ているようなものなので、からだが冷えやすい。青山・まだらめクリニックを受診する患者さんのなかで、真夏でも湯たんぽを膝の上に乗せると気持ちよいと感じる人は、からだが冷えている証拠だと班目医師はいう。冷え性(低体温症)の人は湯たんぽをからだに一日何回もあてて温めれば、血流が改善され血中のリンパ球数が増える。つまり、からだの「冷え」をとることで、免疫力が高まる。また、エアコン(冷房)でガンガンに冷やした室内環境も、からだに溜まった水分を汗として蒸散できない原因となり、それが「夏の冷え性」の引き金になるのでご用心。
もうひとつ、「冷え中毒」とは、ユニークな免疫理論に基づいてさまざまな免疫病の治療に当たる西原研究所所長・西原克成医師による造語だが、これはからだの中でも最も重要な免疫系である「腸管免疫(口から肛門まで、消化管全体に配置された多くのリンパ組織、ウイルスなどの病原体と戦う抗体による自己防衛システム)」は、からだの「冷え」に影響されやすく、免疫レベルを大きく下げる。たとえば、キンキンに冷やした生ビール(約3℃)を、中ジョッキ(約500ml)や大ジョッキ(約800ml)で一気に飲み干すと、腋下や口中で測るより1~2℃高め(37.5~38℃)に保たれている腸管の温度が35℃以下となり、一時的に低体温症におちいる。腸管の温度が1℃~2℃下がると、免疫系が働きにくくなる。飲食物が病原体と一緒に、腸管に侵入した場合、免疫がうまく働かず、白血球は病原体をとらえるが、消化することができずに、病原体を抱えたままになる。冷たいビールの一気飲みは避け、少しずつ口に含んでよく味わう飲み方が望ましい。自然界で暮らすヒト以外の鳥や動物は冷たい水をきらい、常温の水を飲むのは、自分のからだを守るための知恵である。昔の人が「お腹を冷やすな」「湯冷ましを飲め」と戒めたのには、それなりの理由があった。
◆「口呼吸」を「鼻呼吸」に変えて、免疫力をアップする
肺における血液のガス交換(吸気の酸素を血液中に取り入れ、静脈で運ばれてきた炭酸ガスを呼気で吐き出す)を外呼吸という。よくない外呼吸には、口呼吸と浅い呼吸のほか、常に冷たい空気を吸う呼吸がある。これらは心臓や血管など循環系に悪影響を与えるだけでなく、血液で運ばれる酸素とブドウ糖をもとにヒトのエネルギーを作っているミトコンドリアの働きも悪くなりで、全身の免疫レベルが低下する。
最近、「鼻呼吸」という言葉をよく耳にする。13年前に上梓した拙著『あきらめない! もうひとつの治療法』(厚生科学研究所、2007年)を書くために取材した西原医師の言葉を要約すると、ハアハア息をする「口呼吸」の習慣が、ゼンソク、アトピーをはじめ、潰瘍性大腸炎、クローン病などを発症させるのだという。人類が長い進化の過程で水中でのエラ(鰓)呼吸から陸上動物の肺呼吸となり、やがて言葉を話す唯一の哺乳類として「口呼吸」を可能にしたことが、さまざまな病気の原因となっている。私たちの咽喉部(のど)にはワルダイエル扁桃リンパ輪と呼ばれる白血球造血巣があって、鼻や口から入ってくるバイ菌を識別し、これを消化する白血球が活性化する免疫機構がある。「鼻呼吸」で空気を出入りさせれば、鼻からのバイ菌を受けもつ鼻の奥の咽頭扁桃・耳官扁桃・小扁桃が正常に機能するが、「口呼吸」のみの場合には気道部の咽喉扁桃はあまり機能せず、空気からの毒物やバイ菌はフリーパスで肺に届く。
これは、新型コロナウイルスが、まず上気道にとり付いたウイルスはやがてその奥の肺で増殖し、肺炎症状を引き起こすメカニズムから考えると、「口呼吸」常習者の感染確率が高くなることが理解できる。
いびきをかく、起床時に口が渇いている・のどがイガイガする、唇がよく乾く、などの症状があるときは、睡眠中に舌が落ち込んで気道をふさぐ「口呼吸」のおそれがある。口に貼って寝るだけで「口呼吸」を予防する「鼻呼吸」テープも市販されているが、ひどくなると、睡眠中に一時的に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」もあるので、心配な人は呼吸器専門医を受診すること。
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