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連載「つたえること・つたわるもの」(46)

ビジネスガール、オフィスレディ、キャリアウーマン、キャリジョ。

連載 2018-08-07

出版ジャーナリスト 原山建郎

 「歌は世につれ、世は歌につれ、時代を超えて語り継ぎたい歌がある」とは、懐メロ歌番組の司会者(近年の名称はМC)の台詞だが、それぞれの時代を生きた人々に歌い継がれてきたメロディーがある。

 私は作家の遠藤周作さんが36年前(1982年)に提唱した「心あたたかな医療」運動の一つ、遠藤ボランティアグループ(首都圏9つの医療・介護施設でのボランティア活動)の代表を務めているが、高齢者介護施設のイベント「みんなで歌おう」に参加したときのこと。大ホールに集まった高齢者を前に、施設長から、「遠藤ボランティアさん、何か歌ってください」と声をかけられた。突然のリクエストに戸惑ったが、思い切って「故郷(ふるさと)」(高野辰之作詞・岡野貞一作曲による文部省唱歌)を歌うことにした。

 一番の「兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川 夢は今も めぐりて 忘れがたき 故郷」から、三番の「志を果たして いつの日にか 帰らん 山は青き 故郷 水は清き 故郷」まで、もちろん全員がアカペラで気持ちよさそうに歌ってくれた。心のなかに、懐かしい故郷の田園風景が広がっているのか、目をつぶったまま、一つひとつの歌詞を味わうように噛みしめ、小さくうなづく高齢者の姿が印象的だった。

 かく言う私も、いまや72歳の立派な高齢者である。22歳で『主婦の友』編集部に配属された新前記者は、1968年末の「紅白歌合戦」出場歌手のグラビア撮影で、その当時は内幸町(東京・日比谷)にあったNHK放送センターで、「恋のしずく」を歌う伊東ゆかりを取材した。芸能人に会うのは初めてだった私は、やはりそのとき取材した千昌夫の「星影のワルツ」、森進一の「花と蝶」、青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」などが、50年後のいまもなお、新前記者時代を思い出す歌謡曲たちとなっている。

 もう十二年も前のことだが、昨夏、90歳の長寿を全うされた神山五郎医師を取材した折、「原山さん、取材が終わったら、歌声喫茶に行こう」と声をかけられた。夕暮れの新宿、歌声の店「家路」の狭い階段を上がると、にぎやかな歌声が聞こえてきた。当時78歳の神山さんと62歳の原山は、60~80歳代の歌謡シニアたちとともに、ビールのジョッキを傾けながら、はるか昔となった青春時代を、「山男にゃ惚れるなよ」「おお牧場はみどり」「牧場の朝」などの、往年の青春歌謡でたどる、至福のひとときを過ごした。

 平成の高齢者にとっての共通言語は、文部省唱歌や歌声喫茶で熱唱される「歌ことば」、その時代を生きた人々の間に伝わり、互いをしっかり結びつける「歌ことば」なのである。

 と、ここまでは各世代に伝わる「共通言語」、「歌は世につれ、世は歌につれ」に代表される「歌ことば」について。ここから先は「時代を創ることば」、あるいは「時代を切りとることば」について考える。

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