とある市場の天然ゴム先物 32
【4月4日】天然ゴム先物の市場流動性が改善予定!
連載 2022-03-23
市場流動性の減少
ここまで見てきたとおり、2022年に入っても取引高や取組高といった市場動向の下落トレンドには大きな変化は起きていません。
この間、例えばシンガポール市場のTSR20先物についても、取組高が2021年末の49,044枚から2022年3月18日には39,424枚に減少しています。他のコモディティが大きく値上がりするなか、上海の天然ゴム先物価格はずるずると下落を続けており、グローバルで天然ゴム先物の盛り上がりが欠けているという面は確かにあるでしょう。
とはいえ2021年からの取引高、取組高の減少はトレンド傾向となっており、ここにはやはり相場動向以外の要因も潜んでいそうです。
そこで市場参加者の方々にお話を伺ってみますと、特に国内外のディーラーや個人投資家の多くの方から、「もちろん相場動向の影響は大きいものの、市場(取引所の立会内)の流動性が落ちてきていることから、発注の手控えや発注量を減らすなどしており、それが市場流動性全体の減少に更に拍車をかけているのでは・・・」といったご指摘を頂きました。
そこでスナップショットではありますが、例としてRSS3先物で最も流動性のある第6限月の実際の取引状況(板状況)を見てみましょう。
RSS3先物(第6限月)の板状況
出所:JPXより筆者作成
市場の流動性を測る指標はいくつかありますが、ここでは売注文と買注文の差である「スプレッド」を取り上げてみましょう。
2021年3月1日では、最優先の売注文の値段が271.5円、買注文の値段が271.2円ですので、その差であるスプレッドは「0.3円」となります。このスプレッドが小さいほど投資家は安い(高い)値段で買え(売れ)ることになりますので、市場流動性が高い状況であるといえます。
2021年12月1日ではスプレッドは「0.5円(241.5円-241.0円)」となっていますので、3月の時点よりも広がっている様子が分かります。
もちろんこの板状況はあくまでも一時点のスナップショットであり、注文状況は刻一刻と変化しますので、トレンドの把握にはこのスプレッドの中長期的な動向を確認する必要があります。
とはいえ、このスプレッドについては特に海外投資家やディーラーなどを中心に、「今までは0.3円から広くても0.5円くらいだったものが、最近では0.5円、更にはもっと広い水準になることもある。さらに板状の注文数量が少ないため、以前と比べて値動きが軽くなってしまっており取引しにくい」といった具体的な指摘を受けているところです。
例えば相場状況など、取引所としてはどんなに頑張っても改善することができないことも多々あるのですが、こうしたスプレッドなどについては対応策が考えられるところです。
市場流動性回復のための対応策
それではこうした市場流動性の改善にはどのような対応策があるのでしょうか。その鍵となるのは「マーケットメイカー制度」です。
マーケットメイカーとは継続的に市場に売注文と買注文を同時に提示して、市場に流動性を供給し続けるスタイルの投資家となります。こうしたマーケットメイカーは、大阪取引所が定める条件で売・買注文を継続的に出し、条件を満たせばインセンティブを受け取ることができる仕組みとなっています。
従来のRSS3先物のマーケットメイカー制度では、取引の中心である第5限月、第6限月が対象について、マーケットメイカーの気配提示義務である売注文と買注文の最低スプレッド幅は0.9円(9ティック)でした。この制度の下で、2021年3月22日現在では2社がマーケットメイカーとして登録されています。
これらのマーケットメイカーは現状の制度においても流動性を提供してくれていますが、取引の減少トレンドを止めるには、スプレッド状況について更なる改善を目指す必要があるところです。
そこで大阪取引所では、2022年4月4日より、より狭いスプレッドで第5限月、第6限月に売・買注文を発注してもらうための、新たなマーケットメイカー制度を導入いたします。
RSS3先物に新たに導入されるマーケットメイカー制度と気配提示例
出所:JPXより筆者作成
従来の制度では、マーケットメイカーは売り注文と買い注文のスプレッドが0.9円(9ティック)の範囲で、最低5枚の注文を出す必要がありました。
これが新しく導入する制度では、マーケットメイカーが注文を出すスプレッドは「0.5円(5ティック)」となります。ただしマーケットメイカーとしても条件が厳しくなることから、最低注文数量は3枚としています。
こちらの新たに導入される制度について、複数のマーケットメイカーが4月4日からの参加に手を挙げており、着々と準備を進めているところです。
従いまして、順調に進めば「2022年4月4日の日中取引(9:00~15:15)より、RSS3先物の板の気配提示状況の改善が実現する」予定となっています。
なお取引高や取組高などが増加していくためには、こうした市場流動性の改善だけでなく、相場環境の好転や投資家層の拡大といった様々な条件が必要になってきます。
そして先ほどもお伝えしましたが、こうした市場の振興は取引所の力や制度変更だけでなんとかできるものではない、というのが実情です。実際、今回新たに導入する制度につきましても、趣旨に賛同してくれるマーケットメイカーの協力や尽力なしには実現できません。
1952年の取引開始から70年近くの歴史を持つ天然ゴム先物の灯を消さぬよう、今回の市場流動性の改善を起爆剤とするためにも、引き続き市場に参加する皆様と力を合わせて市場振興に取り組んで参ります。
なおRSS3先物の価格状況(最低20分遅れとなります)は「こちらのJPXウェブページ⇒商品先物価格情報(OSE)⇒ゴム(RSS3)先物」で見ることが出来ますので、4月4日以降、改善予定のRSS3先物の第5限月、第6限月のスプレッド状況をご覧頂けましたら嬉しく思います。
※次回の更新は2022年4月上旬頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
JPX「マーケットメイカー制度」
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