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とある市場の天然ゴム先物 31

有事における天然ゴム価格の動き

連載 2022-03-01

1980~90年代の紛争とソ連の崩壊

 1980年代にはイラン・イラク戦争、1990年初頭には湾岸戦争が発生しましたが、原油価格に対しては以前の石油危機ほどのインパクトはありませんでした。

 特に1990年8月のイラクによるクウェート侵攻では、一時イラクは世界の石油確認埋蔵量の約20%を手中に収め、さらにサウジアラビアの油田を押さえられるリスクがありましたが、1991年1月の湾岸戦争の早期終結によりこうした危機は回避されることとなります。

 一方、1991年末のソ連崩壊はゴム相場に影響を与えることになります。

 ソ連が崩壊したことにより合成ゴムの生産が大幅に落ち込み、特にソ連の合成ゴムに依存していた欧州企業が天然ゴムを積極的に買い入れることとなります。加えて、天候不順による一時的減産、中国の積極的買付け、世界的な需要回復といった強気材料が相次いだことにより、1994年から1995年にかけて天然ゴム価格が高騰します。

 なお以前にもご紹介しましたが、この間に国際天然ゴム機関(International Natural Rubber Organization, INRO)が在庫放出による価格安定化操作を行います。しかし相場の高騰を止めることはできず、人為的な天然ゴム価格操作の限界を露呈する結果となりました。

天然ゴム現物の指標市場価格とINROの市場介入基準の推移

出所:JICA「案件別事後評価:天然ゴム輸出途上国におけるゴム緩衝在庫拠出事業」

9.11からアフガニスタン紛争、イラク戦争

 1994年から高騰した天然ゴム価格ですが、産地の供給過剰から1996年の半ばには失速することになり、1998年11月以降、天然ゴム先物価格は100円を割り込むこととなります。

 こうした相場に追い打ちをかけるように、2001年9月に米国同時多発テロが発生します。

 これにより世界的な景気後退で天然ゴムの需要が減少し、加えてタイ政府による在庫の安値売却と消費国の買い付け停滞で産地相場も更に悪化したことで、天然ゴム先物は2001年11月に上場来最安値の62.0円を記録しました。

 その後、2001年からのアフガニスタン紛争、2003年からイラク戦争と続きます。この2000年初頭から2007年の金融危機までの間は「スーパーサイクル」と呼ばれ、原油を含めたコモディティ価格全体が高騰することになります。

RSS3先物とNYMEX WTI原油先物の価格推移

出所:NYMEX、JPX

 ただしこうした相場を牽引したのは紛争ではなく、中国を中心とした新興国の急成長による需要増大や商品ファンドといった投機的資金の流入が主要な要因でした。

 さて、これまで過去の紛争と天然ゴム価格の関係について見てきました。歴史を通じて、こうした紛争の天然ゴム価格への影響としては以下が言えそうです。

 ①戦後間もない時期では天然ゴムが軍需物資として認識されていたこともあり、(朝鮮戦争のように)紛争発生を材料に価格が高騰する場面もあったが、概ね短期間でファンダメンタルズに回帰。現在では産地もしくはサプライチェーンに直接的な形で影響が生じない限り、この文脈で天然ゴム価格が影響を受ける可能性は少ないと思われる。

 ②(1970年代の石油危機のように)紛争が原油価格にインパクトを与え、さらにそれがある程度の期間継続する場合、天然ゴム価格も一時的に連動する可能性がある。ただし、こうした一時的な価格連動は長続きせず、需給の状況によって価格が調整されることになる。

 ③(ソ連崩壊や9.11のように)紛争自体が世界経済の動向や需給にインパクトがある場合、天然ゴム価格に影響が生じる。特に供給サイドよりも、需要サイドにネガティブな影響を受けるケースの方が多い。

 こうした背景として、天然ゴムの生産地はアジアに偏っており、原油の場合と比較して紛争の発生を要因とした供給ショックが起こる蓋然性が低いこと、先物市場の規模が小さいため、原油のように紛争の動向を受けた投機フローの流入が少ないこと、原油のOPECのような国際的な価格調整メカニズムが存在しないこと、結果として需要と供給といったファンダメンタルズの影響を強く受けること、といったことが挙げられるでしょう。

 とはいえ、例えば地政学的にリスクの高い南シナ海において紛争が発生した場合、タイやインドネシア、ベトナム等からの海路のサプライチェーンに大きな制約が生じ、結果として天然ゴム価格の高騰に繋がる可能性が高いと思われます。

 世界の安全保障で不透明さが増すなか、天然ゴムが再び軍需物資として認識されるような事態が生じないとも限りません。特に日本は天然ゴムを全量輸入していますので、こうしたリスクの洗い出しおよび準備をしっかりと検討しておく必要があるでしょう。

※次回の更新は2022年3月中旬頃の予定です。

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