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とある市場の天然ゴム先物 23

天然ゴム先物「6→12限月制」変更後の市場動向を確認してみる

連載 2021-09-28

取引の中心となる限月をどのように考えればよいか

 ところで今回の天然ゴム先物の12限月制への変更ですが、以前にもお伝えしましたように、大阪取引所としては取引の中心となる限月を「人為的に」変更することは意図していません。

 天然ゴム先物の限月制度では、過去1984年に連続9限月制に変更したものの、市場流動性が過度に分散してしまい、わずか3年10ヵ月で元の6限月制に戻されたという苦い経験があります。

 そのため今回の制度変更では、市場流動性が歪な形で分散して現状のエコシステムが壊れてしまうことを防ぐための対応を取っており、そのうちの1つが1984年当時には存在しなかった「マーケットメイカー制度」となります。

 マーケットメイカーとは継続的に市場に売呼値及び買呼値を提示することのできる投資家で、高頻度取引(HFT: High Frequency Trading)と呼ばれる取引スタイルのプレイヤーなどが該当します。こうしたマーケットメイカーは、大阪取引所が定める条件で売り・買い注文を継続的に出し、条件を満たせばインセンティブを受け取る仕組みとなっています。

 このマーケットメイク制度について、RSS3先物では第5限月、第6限月、TSR20先物では第3限月、第4限月が指定されており、2021年9月24日現在、RSS3先物では2社、TSR20先物では4社のマーケットメイカーが指定されています。

天然ゴム先物におけるマーケットメイク条件の例

出所:JPXより筆者作成

 この天然ゴム先物のマーケットメイカー制度の対象銘柄について、12限月制後も変更していませんので、このことから「取引所として取引の中心限月の人為的な変更は意図していない」というシグナルが市場に伝わることを期待しています。

 ところで商品先物の世界では「期先=最も流動性が高い銘柄」という取引慣習があり、RSS3先物も長らく「期先=第6限月=最も流動性が高い銘柄」という関係になっていました。

 こうした「期先=最も流動性が高い銘柄」という図式ですが、12限月制の導入以降は変化が生じ、「期先=第12限月=最も流動性が高い銘柄ではない」、「第6限月=最も流動性が高い銘柄」となりました。

 こうした状況下では、投資家が今までの「期先=最も流動性が高い銘柄」が頭にあることで、本来は「最も流動性の高い第6限月」での取引を想定していたところ、誤って「期先である第12限月」に発注してしまい、意図しない値段での約定や、約定後になかなか反対売買が難しい状況に陥ってしまうリスクがあります。

制度変更から2021年9月24日(金)前後の限月の関係

出所:JPXより筆者作成

 そこで大阪取引所では、納会日の9月24日(金)に「ゴム(RSS3、TSR20)先物取引におけるマーケットメイカーによる流動性提示の対象限月について」というアナウンスをJPXウェブサイトで公表し、改めて「マーケットメイカーが流動性を提示している銘柄は制度変更後でも変わっていない」旨を強調しています。

ゴム(RSS3、TSR20)先物取引におけるマーケットメイカーによる流動性提示の対象限月について

出所:JPX

 もちろん市場は生き物ですので、全体のエコシステムが少しずつ変化することにより、今後、天然ゴム先物の取引の中心が自然に変わっていくことも起こり得るでしょう。

 そういう意味では、ご紹介したマーケットメイカー制度の対応や上述のアナウンスは「取引所として何が何でも取引の中心を変えないようにする」というものではなく、「投資家が取引の中心だと誤認して期先(第12限月)に発注することで不利益を被ってしまう」ことや、「取引の中心が急に変更されることにより、天然ゴム先物市場のエコシステムが崩壊する」ことを防ぐことが主要な目的となっています。

 このように、大阪取引所としては引き続き市場の動向を注意深くウォッチし、時には状況に応じて柔軟に対応しながら、全ての投資家やステークホルダーの利便性が高まることを目指して、今後も市場運営、制度設計をしっかりと行って参ります。

※次回の更新は2021年10月12日(火)頃の予定です。

【もっと知りたい方に!】
JPX「J-GATE3.0稼働に伴う取引制度の見直し等」
JPX「マーケットメイカー制度」

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