とある市場の天然ゴム先物 19
【市場比較③】日本と中国の天然ゴム先物市場 (2)
連載 2021-07-27
値動き、取引高の関連性
それでは最後に、各市場における先物価格や取引高の関連性について見てみましょう。
まず中国国内の天然ゴム先物(上海先物取引所)とTSR20先物(INE)の値動きですが、TSR20の方が安価なため、TSR20先物は上海先物取引所の天然ゴム先物(SCR WF/RSS)と比較して常に1kgあたり2~4人民元(約34~68円)ほどのディスカウントとなっています。
SHFE 天然ゴム先物先物とINE TSR20先物の値動き
出所:SHFE、INEより筆者作成
次にINEのTSR20先物を米ドル、kgに換算のうえ、国際指標であるシンガポール取引所のTSR20先物と比べてみます。
SGXとINEにおけるTSR20先物の値動き
出所:INE、SGXより筆者作成
同じTSR20先物ではあるものの、受渡し対象となるゴムの産地構成や市場参加者が異なり、また中国市場では為替の影響を受けることから、両先物が必ずしも同じ値動きになるという訳ではありません。とはいえ、2020年7月からの比較では、INEのTSR20先物の方がプレミアムになる傾向が強いことが分かります。
各市場の値動き比較(現地通貨建て、2020 年7月 1 日=100)
出所:JPX、SGX、SHFE、INEより筆者作成
2020年7月1日を100とした時の各市場の現地通貨建ての値動きを比較しますと、INEのTSR先物の値動き幅が最も小さいくなっています。
また、この期間のINEのTSR20先物と他市場との相関係数を見てみますと、大阪取引所のRSS3先物とは0.96、シンガポール取引所のTSR20先物とは0.97、上海先物取引所の天然ゴム先物とは0.89となっています。
INEではまだ海外投資家比率は低く、巨大市場である上海先物取引所の動向に多分に左右されると思われますが、一方で価格形成という観点ではシンガポールのTSR20先物といった国際指標も意識して動いているといえるでしょう。
限月間スプレッドの構造
出所:SHFE、INEより筆者作成
こちらは各市場における限月の価格差を表したグラフとなります。以前にもお話したとおり、大阪取引所のRSS3先物は逆ザヤ(期近の方が期先よりも高い)になる傾向が多いという特徴があります。
ここでINEと同じTSR20先物のSGXを比べてみますと、両市場とも順ザヤ(期先の方が期近よりも高い)となっていますが、SGXの方がより滑らかであることが分かります。これはSGXのTSR20先物の方が実需筋や海外投資家が多いことで、限月間の裁定取引などがより活発に行われているということが背景にあるものと思われます。
SHFEとINEの取引高分布
出所:SHFE、INEより筆者作成
市場比較の第1回でご紹介したように、2021年に入り日本やシンガポールの天然ゴム先物市場の取引高は減少傾向にありますが、INEでは逆に取引高が増加しています。
さらに上図の左側のチャート(2020年7月1日~12月31日)を見ますと、上海先物取引所の天然ゴム先物の取引が盛り上がるとINEのTSR20先物も合わせて取引高が増加する傾向が分かります。
この関係性は2021年に入ると目立たなくなってきていますが、これは2021年に入り、上海先物取引所の天然ゴム先物が大商いとなる場面がほとんどなかったことに起因していると思われます。
なお、2020年後半におけるINEのTSR20先物と上海先物取引所の天然ゴム先物との間における取引高のような関係は、シンガポールのTSR20先物や日本のRSS3先物との間ではどの期間においても見られませんでした。
さて、今回はINEで取引をされているTSR20先物を詳しく取り上げてみました。
最後に、日本においてもINEに先駆けて2018年10月にTSR20先物市場をスタートしていますが、残念ながら取引は低迷しています。
今まで述べてきたINEのケースと比較しますと、制度設計以上に、取引開始時の経済環境(経済規模、力強い経済成長)や潜在的な投資需要(100社以上と言われるタイヤメーカー、個人投資家など)、既存の巨大な天然ゴム先物市場の存在(上海先物取引所の天然ゴム先物)、市場発展を見込んだ海外投資家の参入拡大など、市場のエコシステム構築における前提条件の大きな違いに気付かされます。
こうした状況下において、今後日本の天然ゴム先物市場を発展させるためには、制度設計の改善などを通じて既存の投資家の利便性を向上するとともに、INEを含めた成長著しい海外市場との連携を強化し、グローバル・サプライチェーンにおける取引需要を拡大したうえで、それを呼び水として新しいタイプの投資家層を呼び込むことが何よりも重要、と認識しているところです。
※次回の更新は2021年8月11日(水)頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
郭曉利「中国先物市場の過去、現在及び将来」
甘長青「中国人民元建ての上海原油先物取引の現状と将来展望」
閻和平「中国における商品先物取引の現状および取引所立地について」
齋藤尚登「金融分野の改革・開放と自由貿易試験区」
村松健「米中対立と中国資本市場開放の行方」
日本取引所グループ「ゴム先物情報」
Shanghai International Energy Exchange「TSR20」
IRSG「Rubber Statistical Bulletin, April – June 2021」
-
とある市場の天然ゴム先物 33
【2022年振り返り①】天然ゴム先物市場の動向・日本編
連載 2023-01-17
-
とある市場の天然ゴム先物 32
【4月4日】天然ゴム先物の市場流動性が改善予定!
連載 2022-03-23
-
とある市場の天然ゴム先物 31
有事における天然ゴム価格の動き
連載 2022-03-01
-
とある市場の天然ゴム先物 30
天然ゴム先物の取引時間の変遷を追う!
連載 2022-02-08
-
とある市場の天然ゴム先物 29
【2021年振り返り②】天然ゴム先物・市場動向編
連載 2021-12-21
-
とある市場の天然ゴム先物 28
【2021年振り返り①】天然ゴム先物・出来事編
連載 2021-12-07
-
とある市場の天然ゴム先物 27
タイに上場する日本の天然ゴム先物【Japanese Rubb
連載 2021-11-24
-
とある市場の天然ゴム先物 26
海外投資家から見た日本の天然ゴム先物価格
連載 2021-11-09
-
とある市場の天然ゴム先物 25
RSS3先物の対象となる天然ゴムの商品スペックを見てみる
連載 2021-10-26