とある市場の天然ゴム先物 19
【市場比較③】日本と中国の天然ゴム先物市場 (2)
連載 2021-07-27
商品スペック、取引制度の違い
それでは、ここでは各国市場で取引されている天然ゴム商品について見てみましょう。
日本(OSE)、シンガポール(SGX)、中国(INE)の天然ゴム先物
出所:JPX、SGX、INEより筆者作成
日本で取引をされている天然ゴム先物はRSS3先物とTSR20先物となりますが、INEではTSR20先物のみとなります。
このTSR20先物の対象となる天然ゴムは、INEが承認した工場で製造されるTSR20となります。承認工場は38あり、うち中国が7工場、タイが25工場、マレーシアが2工場、インドネシアが3工場となっています(21年7月23日現在)。タイの25工場については、日本のTSR20先物の承認工場と多くが重複しており、両市場間の裁定取引の活発化が期待されるところです。
2020年の取引高を比べてみますと、INEのTSR20先物は、取引開始から1年で既にシンガポール取引所のTSR20先物よりも大きいことが分かります。
なお、日本やシンガポールの天然ゴム先物の取引単位が5トンであるところ、中国では10トンとなりますので、実質的な取引高を比べる際にはINEの取引高を更に2倍して見る必要があります。改めて中国市場の規模の大きさを実感するところです。
商品スペック比較
* 2021年9月21日に直近12限月に変更予定。
出所:JPX、INEより筆者作成
次に各市場の商品スペックを比較してみましょう。
INEは海外投資家にオープンな市場となっていますが、取引通貨は他の中国国内取引所と同様、人民元建てとなります。
また限月取引ですが、上海先物取引所の天然ゴム先物が直近10限月であったのに対し、INEのTSR20先物は直近12限月となります。これはシンガポール取引所のTSR20先物と同じです。
取引単位は日本やシンガポールの2倍となる10トンとなります。また受渡方法は日本がFOB(本船渡し)、シンガポールがFOBか倉庫渡しの選択が可能であることに対し、INEのTSR20先物は上海先物取引所の天然ゴム先物と同様、中国国内の保税区域における倉庫渡しとなります。
そのほか、受渡供用品となるTSR20では、中国産以外にもタイ、マレーシア、インドネシア産が認められています。
取引制度比較
出所:JPX、INEより筆者作成
まず値段の表示ですが、大阪取引所では1kgあたりの価格(2021年7月14日における第6限月の清算値段では209.5円)が表示されている一方、INEでは上海先物取引所と同様、1トン(1,000 kg)あたりの価格(同日における第3限月の清算値段では10,540人民元)となります。
また、一日の値幅制限は前日清算値段の上下5%であり、こちらは上海先物取引所の3%よりは高いものの、大阪取引所の約9.5%(2021年7月14日時点)シンガポール取引所の10%より低い水準となっています。INEのTSR20先物市場は他の海外市場の制度を意識して設計されていますが、その一方で過度な価格変動は防ぎたいという中国当局の思惑も感じられるところです。
市場環境の違い
それでは次に、各市場を取り巻く環境の違いを見てみましょう。
大阪取引所のRSS3先物の売買シェアの約60%は海外投資家となっています。一方、INEのTSR20先物は海外からの投資が認められているものの、実際の海外投資家の売買シェアは20%を切っており(INEの2020年11月のプレゼン資料より)、取引の大半は国内投資家であることが分かります。
また、INEのTSR20先物における受渡高を見てみますと、2020年は115,700トン(11,570枚)であり、これは上海先物取引所の天然ゴム先物の154,410トン(15,441枚)と比べても取引高ほどの差はありません。
ただし中国国内の天然ゴム年間消費量544万トン(2020年データ、IRSG調べ)と比較すると、TSR20先物の受渡高はわずか2%に過ぎず、実需における活用という観点ではまだまだ道半ばと言えるでしょう。その対応として、INEは天然ゴム生産者やタイヤメーカーなどに対し、TSR20先物をベンチマークとして使用してもらうための覚書の締結などを進めています。
次に先物の限月別の取引構造を見ますと、大阪取引所のRSS3先物の取引の中心は期先限月(第5、6限月)となっていますが、INEのTSR先物では第2、3、4限月となります。こちらもシンガポール取引所のTSR20先物と同じです。なおINEでは第7限月以降は、売買、取組高ともにほとんどありません。
限月別取引高シェア(2020年7月9日)
出所:JPX、SGX、INEより筆者作成
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