とある市場の天然ゴム先物 17
【市場比較①】日本とシンガポールの天然ゴム先物市場
連載 2021-06-22
値動き、取引高の関連性
それでは最後に、両市場における先物価格や取引高の関連性について見てみましょう。
OSE RSS3先物とSGX TSR20先物の値動き(2020年7月1日=100)
出所:JPX、SGXより筆者作成
上のチャートはOSEのRSS3先物、SGXのTSR20先物の値動きを比較したものとなります。
先物の対象となるゴムがRSSとTSRで産地を含めて異なり、OSEの場合はドル円の為替の影響も反映されますので、両先物が必ずしも同じ値動きになるという訳ではありません。それでも観測期間の相関係数は98%と非常に高くなっています。またこの期間の傾向としては、OSEのRSS3の方が値上がり時のボラティリティが大きくなっています。
次に為替の影響を除いたうえで、OSEのRSS3とSGXのTSR20の価格差(スプレッド)を見てみましょう。
OSE RSS3先物とSGX TSR20先物の価格スプレッド
出所:JPX、SGX、Bloombergより筆者作成
こちらのチャートは2020年7月から2021年6月までの期間で、OSEのRSS3先物(第6限月)を米ドル換算したうえ、SGXのTSR20先物(第3限月)との価格差を表したものとなります。RSSの方が高価ですので、通常はOSEのRSS3先物の方がプレミアムとなります。
両先物の価格スプレッドは2020年7月から上昇を始め、価格が急騰した2020年10月に急拡大しました。その後も価格が急上昇した2020年12月初頭、2021年2月末のタイミングでスパイクしたのち、直近は下落傾向にあるものの、プレミアムはまだ50米セント水準に留まっています。
価格スプレッドはRSSとTSRの現物の需給等も反映する指標ですが、2020年から2021年のスパイク時にはそうした要因よりも、むしろ両市場の先物の値動きの違いの方が強く影響したものと思われます。
限月間スプレッドの構造
出所:JPX、SGXより筆者作成
こちらは各市場における限月の価格差を表したグラフとなります。天然ゴム先物では、他の条件が同じであれば、天然ゴムを倉庫で保管するコストが掛かるため、通常は期先になるにつれ価格が高くなる傾向があります(これを「順ザヤ」といいます)。
SGXのTSR20先物は順ザヤとなっていますが、OSEのRSS3先物は逆ザヤ(期近の方が期先よりも高い)になる傾向が多いという特徴があります。
両市場の取引高分布
出所:JPX、SGXより筆者作成
両市場の取引高の分布を2020年7月~12月と2021年1月~6月で比較したのが上のチャートとなります。両期間ともにSGXの方が取引高の平均は大きくなっています。
特筆すべきは、2021年に入ってSGXはやや取引高が少ない日が増えたものの、分布自体にそこまで大きな変化は見られない一方、OSE RSS3先物の取引高が大きく減少していることです。特に取引高が10,000枚を超える日が一日もなく、かつ分布全体が左に寄ってしまっていることで平均値が大きく落ち込んでいます。
このOSEのRSS3先物の取引高減少が「市況的な要因」であるのか「市場構造的な要因」であるのか、更に詳細な分析が必要と考えているところです。
またSGXのTSR20先物についても、2020年7月~2021年6月の期間において、上海の天然ゴム先物市場が休場の際の平均取引高は3,000枚である一方、その前後3営業日の平均取引高は6,379枚であり、中国市場の有無によって取引高が大きく左右されるという市場環境になってきています。
加えて、SGXのTSR20先物の取組高(建玉残高)は、2020年7月に65,000枚あったものが2020年末に50,000枚に減少し、更に2021年3月以降に減少幅を広げ、2021年6月現在で約35,000枚まで落ち込んでいます。こちらも市場構造的な変化が生じているのかについて注視しているところです。
さて、今回は日本とシンガポールで取引をされている天然ゴム先物を詳しく比較してみました。
両市場の商品スペックや取引制度、取引データなどは、OSEの「天然ゴム先物Factsheet」やSGXの「Rubber Contracts Factsheet」、「Rubber Report」に詳しく掲載されていますので、ご興味があればぜひご覧くださいませ!
※次回の更新は2021年7月6日(火)頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
Austin Coates “The Commerce in Rubber – The first 250 years”
JPX「ゴム先物情報」
Peter W.C. Tan “Singapore Rubber Trade – an Economic Heritage”
SGX “SICOM Rubber”
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