とある市場の天然ゴム先物 13
サステイナビリティ対応を進める海外市場の事例紹介
連載 2021-04-20
大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介
前回は天然ゴム先物とサステイナビリティの関係についてお話しました。そこで今回は海外のコモディティ市場でサステイナビリティへの取り組みを進めている事例をご紹介いたします。
ケース1:London Metal Exchange(LME)における金属取引
最初のケースはロンドン金属取引所(London Metal Exchange: LME)です。
LMEは1877年にロンドンで設立された金属専門の取引所です。銅や鉛、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、コバルトなどが取引されており、特にLMEにおける非鉄金属の取引価格は国際指標として活用されています。
このように世界の非鉄金属取引の中心地であるLMEですが、サステイナビリティへの取組みを進めることとなった契機の1つは、2017年に発覚したコバルトにおける児童労働問題です。
コバルトはリチウムイオン電池の正極材などに使われることから近年需要が拡大している一方、アフリカのコンゴ民主共和国(DRC)が生産の過半を占めており、スズ、タンタル、タングステン、金といった紛争鉱物(3TG)と同様に、以前より生産状況について懸念が指摘されていました。
LMEは2017年に受渡供用品として中国企業によるブランドのコバルトを新たに追加しましたが、このコバルトについて産品追跡ができないとの情報が市場関係者から寄せられ、調査を進めたところコンゴ民主共和国における児童労働問題が関係していることが発覚します。
この問題を契機として、LMEは2017年に同市場におけるすべてのサプライヤー(生産者)に対して包括的な調査を実施したうえ、2018年10月には責任ある調達(Responsible Sourcing)に対するアプローチの提案をまとめたポジションペーパーを公表し、さらに市場参加者からのフィードバックの分析を取りまとめました。
その後、LMEは2019年4月から6月にかけて市場全体に正式なコンサルテーションを実施し、そのフィードバックを公表するとともに、2019年10月にはLME登録ブランドに対する責任ある調達に関する要求事項を公表しました。
この要求事項により、LMEの受渡供用品は従来の「品質」基準に加え、「責任ある調達(トレーサビリティ)の最低基準と透明性を満たすこと」が求められることとなりました(最初の報告日は2022年6月末)。
なおここでLMEが求める「最低基準」ですが、LMEが独自に基準を策定するのではなく、「OECD 紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」に従うこととなっています。
LME責任ある調達における評価フレームワーク
出所:LME “Overview of LME responsible sourcing”
鉱物資源については以前から紛争鉱物が問題となっており、米国ドット・フランク法(第1502条)の成立を契機として、OECDのガイドラインなどが国際的な枠組みとして既に策定されていました。加えて非鉄金属ではLMEがブランド力、取引シェアともにガリバーとして君臨していることも、この分野でLMEの取り組みが先行している背景の一つと言えるでしょう。
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