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とある市場の天然ゴム先物 13

サステイナビリティ対応を進める海外市場の事例紹介

連載 2021-04-20

ケース2:Bursa Malaysiaにおけるパーム油先物取引

 パーム油はアブラヤシの果実から得られる植物油で、カップ麺やポテトチップスといった加工食品、化粧品、洗剤やシャンプーなどといった幅広い製品に利用されています。安価で単位面積当たりの収穫量が多いことから1990年代より需要が急速に拡大し、現在では植物油脂の生産量でトップとなっています。

 パーム油の生産国としては、インドネシアとマレーシアが突出しており、両国で世界のパーム油生産量の84%を占めています(2018年、FAOSTAT)。その一方でWWFが指摘するように、これまでに両国を中心にした一帯で大規模な農園開発が行なわれてきたことで、多くの熱帯林が伐採されて焼き払われるといった環境問題が生じています。

 そこで環境への影響に配慮した持続可能なパーム油を求める声が高まり、2004年に7つの関係団体が中心となり「持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Palm Oil: RSPO)」が設立されました。

 このRSPOが考える持続可能なパーム油の要件を具体的に示したのが「The RSPO Principles and Criteria(P&C)」であり、7つの原則の下に40項目の基準が定められています。

 このP&Cの枠組みの下で、生産段階で持続可能な生産が行われていることの認証(P&C認証)と、認証パーム油がサプライチェーンの全段階で受け渡されるシステムが確立されていることの認証(SC認証)が整備され、複数の実施状況を想定することでパーム油の複雑なサプライチェーンに合わせて対応できるようになっています。

RSPO サプライチェーン認証モデル

出所:RSPO

 RSPOの他には、パーム油生産国が独自に策定した認証基準もあり、2011年にインドネシアでISPO(Indonesian Sustainable Palm Oil)が、2013年にはマレーシアでMSPO(Malaysian Sustainable Palm Oil)がそれぞれの政府により導入されています。これらの認証制度はボランタリーなRSPO認証と異なり、国内法において小規模農家を含むアブラヤシ農園を運営するすべての事業者に対して取得を義務付けていることが特徴です。

 こうしたパーム油の先物市場での取引ですが、生産量が世界2位のマレーシアでは、マレーシア取引所(Bursa Malaysia)において1980年よりパーム原油先物(Crude Palm Oil Futures: FCPO)が取引されており、この先物はパーム油の国際指標の一つとなっています。

 マレーシア取引所では以前よりパーム油先物のサステイナビリティへの対応に取り組んでおり、2018年には流動性のあるパーム原油先物の商品設計を変更し、受渡しの際に売り方にトレーサビリティを証明する書類を提出させる制度を導入しています。

 さらに2021年4月より、上述のトレーサビリティの証明書類に加え、マレーシアの認証制度であるMSPOの認証を受けた搾油工場の認証番号を合わせて提出させるように規則変更しています。

 ただし、マレーシア取引所によると既に2020年10月の時点で約95%の搾油工場がMSPO認証を受けており、この制度変更による効果は限定的であると予想されます。

 また、2020 年東京オリンピック・パラリンピックにおける持続可能性に配慮した調達コードでも「実効性の面で課題が指摘される場合がある」と指摘されているように、MSPOはRSPOと比べて基準が緩く、国際的にもまだ認知されていないという懸念もあります。

 このようにマレーシア取引所のパーム油先物のケースでは、LMEの場合と異なり必ずしも全ての市場参加者がコンセンサスを持っている基準を採用している訳ではありません。

 今後の成功の鍵はMSPOの基準が生産国において有効に機能すること、また消費国を含めたサプライチェーン全体で認知、活用されることが挙げられるでしょう。

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