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連載「つたえること・つたわるもの」(93)

グーテンベルクの活版印刷、マヌティウスのノンブル発明。

連載 2020-07-14

 これまで、3月2日の専門家会議メンバーがまとめた「無症状、あるいは軽症の人が感染拡大を強く後押ししている可能性がある」、「1年以上の長期戦」という見解に対して、「(この情報を発表したら)パニックになる」とする政府の意向で削除されたことなどを、専門家会議の脇田隆字座長も認めている。

 本来、「民は由(よ)らしむべし、知らしむべからず」という章句は、「民を従わせることはできるが、なぜ従わなければならないのか、その理由を理解させることは難しい」(『論語』)の意味だったが、江戸時代以降、「為政者は民をその政策に従わせればよいのであって、その意義や道理を理解させる必要はない」の意味で使われるようになった。その根底には、明らかに「民の頭脳レベルでは意義や道理は理解できない。黙って従わせればいい」という一般庶民への蔑視、為政者の驕りがある。たとえば、西村大臣の発言(7月3日)、「もう誰もああいう緊急事態宣言とか、やりたくないですよ。休業もみんなで休業をやりたくないでしょ。これ、みんなが努力をしないと、このウイルスには勝てません。また同じようなことになります」は「上から目線」「脅迫言辞」そのものであり、その責任をすべて国民の努力不足のせいにしている。

 また、緊急事態宣言解除(5月25日)、東京アラート解除(6月12日)のあと、先週から東京都の感染者数が100人台、200人台へと倍増した。小池百合子都知事は「積極的に行ったPCR検査の結果、陽性者が増加したと考えている」と述べているが、これまで見えなかった「無症状(ウイルス)感染者」が表に出てきたわけで、無症状感染者による市中感染がこれまでも、そして今後も増え続けることは容易に想像できる。したがって、専門家会議の「無症状、あるいは軽症の人が感染拡大を強く後押ししている可能性がある」という見解は残念ながら証明されてしまったことになる。先週、新宿区で行われた演劇の舞台(6日間、12公演)では、サーモグラフィーによる検温、座席の間隔を空けるなどの感染防止対策をとったにもかかわらず、出演者や観客30名以上のクラスターが発生した。この事実は、「夜の街」関連、PCR検査数の増加だけが感染者数増加の理由ではなく、もうすでに市中感染が広範囲に広がっていると考えるべきではないか。

 イソップ物語に、何度も「オオカミがきた」と嘘をついたために、本当にオオカミがきたときに村人たち信じてもらえなかった羊飼いの少年(オオカミ少年)の寓話がある。連日の報道で、これだけ明らかになった無症状感染者の拡大を「まだ緊急事態宣言を発出する状況にない」と強弁して、無症状感染者の大移動をともなう「GoToキャンペーン」の前倒しを行う政府のやり方は、連日の感染拡大の実態を見なかったかのように「まだ、ひっ迫した状況ではない」を連発する、逆「オオカミ少年」現象と言わざるを得ない。

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