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連載「つたえること・つたわるもの」(91)

制御不能の新型コロナ禍、ガイア(地球生命共同体)が流す涙。

連載 2020-06-09

 さて、「制御不能」を英語では「アウト・オブ・コントロール」という。2020年の五輪開催地が東京に決まった2013年10月に書いた『出版ニュース』誌の連載コラム「ブックセラピー」№21のタイトルが『アウト・オブ・コントロール』だった。東京五輪誘致(経済効果)を優先すべきか、3・11(東日本大震災・福島第一原発事故)の復興対策に専念すべきかの議論があった当時の、コラムの一部を再録する。

 2020年夏期オリンピック・パラリンピック競技大会の開催地が、東京に決まった。

 その切り札は、先月のIOC総会で、福島原発問題を「状況はアンダー・コントロール(制御)されている」と保証し、「汚染水の影響は港湾内0.3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と説明した、安倍晋三総理のスピーチだった。

 大手マスコミは一斉に「アベノミクス効果は三兆円」とはやしたて、喫緊の原発問題より五輪開催の経済効果を優先する現政権のお先棒を担いでいる。近年、少ない投資で大きな利益、大きな投資で巨大な利益を得るマネーゲームが世界を席巻している。アベノミクスもまた、コスト・パフォーマンス(費用対効果。俗語でコスパ)を重視する経済政策である。日本では(2時間限定)食べ放題・飲み放題、(定額料金制)パケットし放題など「払ったお金分、使えるだけ使わなきゃ損=必要でないものも、必要でないときに、必要以上に使う」コスパ文化が大手を振っている。
(中略)IOC総会での「アンダー・コントロール」発言は、政府・東電以外の日本人なら、誰も本当だとは思わない。大手マスコミはそれを知っているが、社説では書かない。それは政府による真実の隠蔽、情報操作をいう言葉で、実態は「アウト・オブ・コントロール(制御不能)」なのだが、もうひとつ、重要な視点を加えたい。危険には、マネージしたり、コントロールしたり、ヘッジできるリスク(制御可能)と、避ける手立てのないデンジャー(制御不能)の二つがある。

 3・11では、10メートルの巨大防潮堤をはるかに越える大津波が町を呑み込んだ。先月
(※2013年9月)、台風18号が福島第一原発に大雨を降らせ、その直後には震度五強の直下型地震が襲った。今回、中程度のデンジャーに対して、鋼鈑をボルトで留めただけの貯水タンクの汚染水漏れを、完全にアンダー・コントロールできたのか。
(連載コラム「ブックセラピー」№21)

 もう一つ、3・11直後(2011年6月)に書いた『トランネット通信』コラム「編集長の目」№142のタイトルは、『やまとことば(和語)では、「愛」と書いて「かなし」と読ませる』だった。原子力発電の仕組みはウランの核融合反応(原子の火)によって得られた熱(エネルギー)で水を沸騰させ、熱せられた蒸気で発電機の蒸気タービンを回すのだが、火力発電は石油や石炭などを燃やしてお湯を沸かし、その蒸気で蒸気タービンを回す。発電に用いる蒸気の熱源がウランか化石燃料かの違いなのだが、福島第一原発事故が起こって初めて、放射線被ばくの悲惨さ、廃炉までに40年以上かかることを知った。このコラムのテーマは、「火を使う」ことを知った人類の文明の暴走という名の「パンドラの箱」である。その一部を再録する。

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