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連載「つたえること・つたわるもの」(70)

遠藤周作の『深い河』創作日記・病状日記、1992年2月21日。

連載 2019-07-23

出版ジャーナリスト 原山建郎

 先週、最終回を迎えた文教大学オープンユニバーシティー『遠藤周作の名作を一緒に読む』(全5回)と、あだち区民大学塾『遠藤周作を読む』(全3回)は、遠藤さんが腎不全(腹膜透析の手術)で入退院を繰り返す中で筆を執った、最晩年の書き下ろし長編小説『深い河 ディープ・リバー』をとりあげた。

 遠藤さんの帰天(1996年9月29日)から半年ほど経ったある日、書斎の隅にさりげなく置かれていたノート、『深い河 ディープ・リバー』(当初は『河』)創作日記が発見された。翌年出版された『『深い河』創作日記』(遠藤周作著、講談社、1997年)の前半は1990(平成2)年・1991(平成3)年・1992(平成4)年の創作日記、後半は1993(平成5)年の病状日記(同年5月に受けた腎臓手術)、また巻末には『歴史読本ワールド』1993年2月号に寄稿した「宗教の根本にあるもの」が収められている。

 ところで、1992(平成4)年二月二十一日の「創作日記」に、原山の名前が出てくる。
 午前、原山君来訪。午後、韓国女子大学、大学院生及びその先生、来訪。拙作の研究との事。昼食は腹腔、佳ならざるをもって、「シェシェ」にて五目そばを飰(はん)す。夜は朝日新聞、深津さんと「寿し兆」に寄る。                       
(「創作日記」75ページ)

 実は、主婦の友社社員であり、その当時遠藤周作番記者であった私が、私自身の著書を他社から出版する件で、目黒駅近くの高台にある仕事場(花房山)をお訪ねした。それが2月21日(金)だったのである。

 じつは、他の出版社の雑誌に連載していたコラム「からだからこころが見える」に目を通された遠藤さんから「これは本にしたらいい」と強く勧められ、そのことを編集担当役員に相談した。すると役員会にかけてみると言われたのだが、その結果は「主婦の友社の社員が他の出版社から著書を出すことは認められない」というものだった。それを遠藤さんに報告に行ったのが、この2月21日だった。私の報告を聞いた遠藤さんは烈火のごとく怒って、これからすぐ社長に電話すると言い始めた。

「出版社とはよい作品を本にする、それがいちばん大事な仕事ではないのか。主婦の友社は、本を出したいという若者の気持ちを認めない、それほどに肝っ玉の小さい出版社か」

 ここで遠藤さんが電話をかけたら、間違いなく私は主婦の友社にいられなくなる。「虎の威を借る狐」に成り下がる。ひたすら平身低頭して、何とか遠藤さんの怒りを押しとどめた。

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