連載「つたえること・つたわるもの」(70)
遠藤周作の『深い河』創作日記・病状日記、1992年2月21日。
連載 2019-07-23
その翌年(1992年)、役員会で再度検討された結果、この案件はあっさり認められた。遠藤さんは大変喜んでくださって、この年の2月、出版社から届けられた全文のゲラ(初校)に目を通して、「カメラ位置の面白さ」と題する400字詰め原稿用紙3枚半の序文を書いてくださった。私の初めての著書『からだのメッセージを聴く』(日本教文社、1993年4月15日発行→のちに集英社文庫、2002年)は、こうして船出したのだが、1993年の日記には創作に関する事柄は、一行も書かれていない。
遠藤周作学会HPの年譜によれば、この2年間の遠藤さんは、つぎのような状態だった。
☆ 1992(平成4)9月、書下ろし長篇小説「河」(のちに「深い河」と改題)の初稿を脱稿。同月、腎不全と診断される。10月、順天堂大学附属病院に検査入院。糖尿病の進行による眼底出血が見られる。11月、退院。書下ろし長篇の推敲に取り組む。
☆ 1993(平成5)年5月、順天堂大学附属病院に再入院。腹膜透析のための手術を受ける。その後三年半、入退院を繰り返す闘病生活が続く。6月、書下ろし長篇『深い河』が講談社から刊行される。当時心不全で危篤であった危機を乗り越え、病床で手にする。
拙著の刊行が数カ月遅れたら、間違いなく遠藤さんの序文はいただけなかっただろう。「カメラ位置の面白さ」は、遠藤さんからのエールであり、また6年後に、34年間勤めた出版社を辞めて、フリーの健康ジャーナリストとして独立することになる、私自身のミッションをも示している。
文中、氏が触れておられるように私が自分の病気体験から日本の医療体制に関心をもち「心あたたかな病院」を作ろうというキャンペーンを打った時、最も共鳴してくださり、協力してくださったのが外ならぬ原山さんだった。我々は共にボランティア・グループを設立し、それに参加した人たちは都内の幾つかの病院で活動されている。(中略)共に「心あたたかな病院」運動をやってきた者の一人として、私は原山さんの本書出版を心から悦んでいる。
(『からだのメッセージを聴く』序文)
「社長に電話する」事件(2月21日)から数カ月後、体調がますます悪化した遠藤さんの「創作日記」には、肺結核、糖尿病、B型肝炎、腎臓病を病みぬいた作家の、作品にかける強い思いがほとばしる。
十月二十二日 毎日みじめでならない。一身多病を背負い、人生のなかで壁にぶつかり、七十歳という老齢では情けない事おびただしい。こういう心理では恰好のいい人生を送ることができないのはよくわかるのだが、生まれつきの弱さで如何ともしがたい。自分でも醜いと思う。(中略)
十一月九日 仕事場にて、少し仕事。憂鬱な気持を『深い河』の草稿を訂正することで忘れたいのである。「河」という題が「深い河」という題に変ったのは黒人霊歌の「深い河」を昨日聞いて、それこそこの小説の題をあらわしていると思った。作品中にこの霊歌を暗示する一節を入れたい。
(「創作日記」129・131ページ)
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