連載「つたえること・つたわるもの」(62)
「死ね!」 相手を許さない、怒りの心、呪いの言葉。
連載 2019-03-26
出版ジャーナリスト 原山建郎
3.11(東日本大震災+福島第一原発事故)の9カ月後(2011年12月)、満を持して出版された書籍、『原発と祈り』(内田樹・名越康文・橋口いくよ著、メディアファクトリー)は、KADOKAWA発行の雑誌『ダ・ヴィンチ』2011年6・7・9月号~2012年1月号に連載された「価値観再生道場 これなんぼや?」と、同誌2011年8月号特集「東日本大震災 無力感を祈りに変えて」の内田・名越・橋口氏による鼎談「原発と祈り」に加えて、WEBダ・ヴィンチ震災特集に掲載された原稿「祈りと呪詛」に加筆修正+書き下ろしで構成されている。同書はサブタイトルに「価値観再生道場」とあるように、戦後の日本をよくも悪くもリードしてきた価値観をいま一度、吟味し直して、真っ当な価値観を再生させようという狙いがある。神戸女学院大学名誉教授の内田さんは武術的・哲学的身体論から、精神科医の名越康文さんは心身医学の観点から、作家の橋口いくよさんはその細やかな感性を通して、同書のテキストを紡いでいる。
前回のコラムで紹介した「原発供養」という発想は、まさに「価値観再生」の手がかりの一つである。日本人が死者を呪鎮するために、塚を立てる、神社仏閣を建てる、歌に詠む、物語を語り継ぐ、その手立てが受け継がれたのは、約150年前、江戸時代まで。現代では伝統的な「呪鎮の手立て」が風化しつつある。
同書にはもう一つ、福島第一原発事故をめぐって、多くの人たちが口にした、またはブログに書かれた「呪いの言葉」について、「その人を呪詛すれば、破滅するのは自分」などのやりとりがある。
内田 この間、福島の高校生が「こんなことだったら、原発四基とも全部爆発しちゃえばいいのに。福島ばっかり差別されて。東京も放射能まみれになればいいのに」って言ったんだって。ジャーナリストが「その怒りの前に絶句しました」って言うからさ、僕はいや「そんなところで絶句しちゃだめだよ、叱らなきゃ」って言ったの。だって、それって呪いじゃない? 高校生がそんな呪いの言葉を口走って、自分を呪い、まわりを呪っているんだから。すぐに止めなくちゃ駄目でしょ。でも、メディアは腰が引けているから、そういう呪いの言葉に対して、「それも、正論ですね」って反応しちゃう。情けないよ。
名越 それに同情しちゃうっていうのは駄目ですよね。その子が身を滅ぼすんだから。教えてあげないと。
橋口 あと、国会や東電の宿舎を全部福島第一原発の横に作れとか、たくさんの人が、まるでそれが正義みたいに言っているでしょう? もしも本当にそうなっちゃったとして、何の意味があるのかと思うんだけれども、ツイッターやブログなんかも含めて、とにかく色んな場所で聞く。
名越 その国会や宿舎うんぬんは、ほんとたくさんの人が言ってますよね。でも、それをいうこと自体がね、破壊させるんですよ、自分を。そうやって自分の腹を立てている相手が、仮にですよ、本当に何の共感もなくて、すごく悪いことやって家では札束数えているような、まるで漫画的な悪い人であったとしても、その人を呪詛すれば破滅するのは自分。
内田 人が身体を傷つけたり、人が不幸になることによって誰が救われるのか。
(同書81~82ページ)
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