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連載「つたえること・つたわるもの」(62)

「死ね!」 相手を許さない、怒りの心、呪いの言葉。

連載 2019-03-26

 内田さんは後書きで、「呪いの言葉」を浴びせられ、生きる意欲を殺がれ、自殺する人もいることに触れているが、「死ね!」など「呪い」を発語する人が心に抱く、悔しさ、怒り、憤りの正当性云々はともかくとして、「呪詛」がもたらす暗黒(ダークサイド)の霊力(ちから)は、想像を絶する怖ろしさである。

 「弱者」たちは救済を求めて呪いの言葉を吐き、「被害者」たちは償いを求めて呪いの言葉を吐き、「正義の人」たちは公平な社会の実現を求めて呪いの言葉を吐く。個別的な発言をみれば、どれもコンテンツ的には「正しい」。正し過ぎるほど正しい。けれども、それらの言葉はどれも他者を黙らせること、うつむかせること、恥じ入らせること、気鬱にさせること、生きる意欲を失わせることをめざして発語されている。内容がどれほど正しくても、その言葉に触れた人間の生命力が衰えるような言葉を私たちは「呪い」に分類する。(中略)ネット上に書き込まれた「死ね」という言葉によって、あるいはすれ違いざまに吐きつけられた「死ね」という言葉によって、生きる意欲を殺がれて、ついに自殺するに至った人々は年間三万人の自殺者のうちの一%では収まるまい。もし年間三百人が「呪いの言葉」によって死んでいるとしたら、私たちの時代は六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生き霊が葵上(あおいのうえ)を祟り殺した時代よりも多くの呪殺者を数えていることになる。
(同書162~163ページ)

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