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とある市場の天然ゴム先物 17

【市場比較①】日本とシンガポールの天然ゴム先物市場

連載 2021-06-22

大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介

 以前、天然ゴム先物市場はアジアの取引所が中心というお話をしました。そこで今回から、日本と各市場の天然ゴム先物市場について、個別に商品スペックや値動きといった関係性を見てみましょう。

 第一回は日本(OSE)とシンガポール取引所(SGX)の比較となります。

歴史の長い天然ゴム先物市場

 シンガポールは天然ゴムの生産地に近く、良質な港が整備されていたこともあり、パッキング業者や商館が集積し、戦前より欧米への天然ゴム輸出の中心地として機能してきました。

 戦前の天然ゴムの値段は主にロンドンで定められており、先物市場(定期市場)もロンドンが中心でしたが、天然ゴムの最大消費市場であった米国のニューヨークや、貿易拠点であったシンガポールにも存在していました。

 戦後になると、天然ゴムの価格決定機能はシンガポールが中心になっていきます。ただし、日本が1952年に取引所組織の形で天然ゴム先物取引を開始したのと異なり、シンガポールの天然ゴム先物は1980年代後半まで天然ゴム協会(RAS)の下で取引されていました。その後、1990年代に取引所取引に移行し、現在ではシンガポール取引所(SGX)の下で取引されています。

 このように、戦前から取引されていたシンガポールや戦後すぐに取引を開始した日本は、まさにアジアの天然ゴム先物取引の老舗と言えるでしょう。

商品スペック、取引制度の違い

 それでは、まずは両市場で取引されている天然ゴム商品を見てみましょう。

各市場の天然ゴム商品

出所:JPX、SGXより筆者作成

 日本で取引をされている天然ゴム先物はRSS3先物とTSR20先物になりますが、これはシンガポールでも同様となります。

 ただし日本と異なり、シンガポールでは先物取引に加え、TSR20先物のオプション取引や、OTC(インター・ディーラー市場)におけるTSR20の先渡取引も取り扱っています。とはいえオプション、先渡は取引がほとんどなく、RSS3先物も近年取引高を大きく減らしていますので、取引の中心はTSR20先物のみとなります。

商品スペック比較

* 2021年9月21日に直近12限月に変更予定。
出所:JPX、SGXより筆者作成


 次に両市場の商品スペックを比較しますと、大きな違いは取引通貨、受渡方法、受渡供用品になります。

 日本で天然ゴム先物(RSS3)が開始されたのは国内業者に調達やヘッジ手段を提供することが目的でしたので、商品スペックでも日本円での取引や日本での倉庫渡しが前提となっています(ただし、2018年に取引を開始したTSR20先物はFOBによる受渡しとなります)。

 一方、シンガポールでは貿易のハブということもあり、先物の取引通貨は米ドルであり、かつ受渡方法も複数国の港でのFOBまたは倉庫渡しを選択できるようになっています。

 また日本は戦後、天然ゴムの調達はタイが中心であったという背景もあり、RSS3、TSR20ともに受渡供用品はタイ産となっていますが、シンガポールのTSR20の受渡供用品はインドネシア、マレーシア、タイ産となり、現物の価格差からインドネシアやマレーシア産が受渡しの中心となっているようです。

取引制度比較

出所:JPX、SGXより筆者作成

 取引制度については両取引所とも海外投資家にオープンなグローバル市場ですので、もちろんパラメータ等に違いはありますが、制度設計という観点ではそこまで大きな差異はないと言えます。

 ただし取引の中心となっている限月(アクティブマンスといいます)については、日本は第5、6限月の期先、シンガポールは第2、3、4限月の期近となっている点には注意が必要です。この背景については後ほどご説明します。

市場環境の違い

 それでは次に、両市場を取り巻く環境の違いを見てみましょう。

投資家別売買シェア(2020年12月)

出所:JPX、SGXより筆者作成

 上のグラフは2020年12月における両市場の投資家別売買シェアとなります。

 ここでSGXでは消費者(タイヤメーカーや輸入卸業者)が一定のシェアを持っていることが特徴です。日本のOSEのグラフにおける海外投資家は、日本国外の自己取引業者や現物ディーラー、生産者等が混在しているために単純には比較できませんが、傾向としてはシンガポール市場の方が実需の取引フローが多いと言われています。

限月別取引高シェア(2020年7月1日~2021年6月11日)

出所:JPX、SGXより筆者作成

 SGXに実需筋の売買が多い傾向があることは、限月別の取引高シェアを見ても推測できます。OSEでは第4~6限月の取引高シェアが全体の94%、特に第6限月のシェアが60%となっているのに対し、SGXでは期近の第1~3限月のシェアが58%となっています。

 日本の商品先物市場では期先限月(第6限月)が取引の中心であったという歴史的背景はあるものの、一般的に実需筋の取引需要は期近にあることが多いですので、SGXの方がそうしたフローを取り込みやすい環境にあると言えるでしょう。

 とはいえ、SGXの天然ゴム(TSR20)先物が実際にタイヤメーカー等の調達に十分活用されているかというと、どうもそうは言い切れないようです。2020年の両市場の受渡高を見てみますと、OSEのRSS3先物は18,505トン(3,701枚)、SGXのTSR20先物は13,240トン(2,648枚)であり、むしろOSEの方が多くなっています。

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