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 「走る楽しさで、未来を変えていく。」というミッションのもと、東京マラソンをはじめとする大会の運営に取り組む東京マラソン財団。同財団では、ランニングスポーツの持続可能性と環境問題は密接に関係するとして、サステナビリティへの取り組みを強化している。その中で、多くのランナーの反響を呼んだイベントの1つが、同財団主催のサステナビリティ事業「RUN CYCLE」の一環である「SHOESTO SANDALS(シューズトゥサンダルズ)」。ゴムの粉砕・加工技術を持つ日東化工と共に、役目を終えたランニングシューズをサンダルに生まれ変わらせる取り組みだ。また、日東化工にとっては初の “一般消費者向け” 製品開発となる。同取り組みについて、東京マラソン財団(事務局次長酒井謙介氏、経営企画室シニアリーダー 村澤雅弘氏)、日東化工(営業統括本部第一営業部長 関口佳弘氏、第二営業部新倉正爽氏、第一営業部 松井広美氏)の両者に思いの丈を語ってもらった。

世界最高峰のマラソン大会として、「走る楽しさ」を提供し続けるために

右から 東京マラソン財団経営企画室シニアリー
ダー 村澤雅弘氏、日東化工営業統括本部第一営業
部長 関口佳弘氏、日東化工第一営業部 松井広美
氏、東京マラソン財団事務局次長 酒井謙介氏、日
東化工第二営業部 新倉正爽氏

 ─まずは東京マラソンをはじめとした大会運営を手掛ける東京マラソン財団が、サステナビリティ事業を推進する意義を教えてください。

東京マラソン財団:当財団では、「走る楽しさで、未来を変えていく。」というミッションのもと、東京マラソン、東京レガシーハーフマラソンをはじめとする大会の運営に取り組んできました。
 しかしながら、気候変動による気温上昇や猛暑日の増加など、ランニングスポーツを取り巻く状況は年々厳しくなっています。実際に、夏場はランニングスポーツを楽しめる期間が減少するなど、ランナーにとって環境問題は決して無縁ではありません。
 これまでも、当財団では「環境配慮」、「社会貢献・普及啓発」、「多様性・包括性の推進」の “3本の柱” を基にサステナビリティへの取り組みを進めてきました。
 例えば、大会運営に伴って発生する廃棄物のリサイクル・リユース、チャリティ活動を通じた社会課題への取り組み・普及啓発、誰もが安心して参加できるユニバーサルデザインを意識した大会運営、といったことです。
みなさんに「走る楽しさ」を提供し続けるためにも、今後さらに、サステナビリティへの取り組みは強化していかなければなりません。

東京マラソン財団事務局次長 酒井謙介氏

 ─ランニングスポーツの持続可能性追求には、環境対策を含め、サステナビリティ事業への取り組みが欠かせないのですね。

東京マラソン財団:はい。特に東京マラソンは、我々が主催する大会の中でも “アボット・ワールドマラソンメジャーズ(世界7大メジャー大会)” と位置づけられています。その分関わる人も多いため、大会運営にかかるCO2排出量も増加します。大会の実施と、環境負荷は密接に関係していて、ランナーも決して無関係ではありません。

─東京マラソンでは、2026大会から大会運営にかかるGHG(温室効果ガス)排出量の事前算定・開示をスタートしたと聞きました。

東京マラソン財団:2026大会からは、主催者による直接排出(Scope1)だけでなく、大会に関わる人(ランナー、大会運営を支える人、観客)の移動や消費行動で生じるCO2(Scope2、3)を含めたGHG排出量の事前算定・開示をスタートしました。
 マラソンの世界7大メジャー大会をみると、それぞれが環境やサステナビリティに関する方針を打ち出し、それに則った取り組みを進めています。その中で、大会運営に係るGHG排出量の開示は、各大会で少しずつ取り組まれてきました。こうした流れを受け、東京マラソンでも2026大会からGHG排出量の算定・開示をスタートさせました。

サステナビリティ事業を、ランナーにとってより身近な存在に

─2026年は、東京マラソン財団にとってサステナビリティ事業 “再強化の年” といったところでしょうか。他にはどのような取り組みを進められていますか?

東京マラソン財団:そうかもしれませんね。ほかにも、2026大会では当財団のサステナビリティ事業「RUNCYCLE」をより身近に感じてもらうイベントも実施しました。
 東京マラソンでは毎年、大会直前に「東京マラソンEXPO」を開催しています。ランニング愛好家のみなさんに楽しんでもらうことを目的に、ランニング業界関係者・企業が一堂に会す展示会です。
 そこに当財団のサステナビリティ事業が初出展し、「RUN CYCLE SQUARE(ランサイクルスクエア)」と称したサステナビリティイベントを実施しました。
 例えば、役目を終えたランニングシューズの回収・買取、命を守るための救命教育など、子どもから大人まで
楽しみながらサステナビリティの重要性を体感できるワークショップを計6つお届けしました。そのうちの1つが「SHOES TO SANDALS(シューズトゥサンダルズ)」です。

─この企画は “役目を終えた” ランニングシューズを、サンダルに生まれ変わらせるものですね。

東京マラソン財団経営企画室シニアリーダー 村澤雅弘氏。
「RUN CYQLE(SHOES TO SANDALS)」の企画立案者

東京マラソン財団:はい。まずは “捨てない” という観点から、使い終えたランニングシューズをリサイクルでうまく別の形にできないか?という問いを立て、はじまった企画です。
 SHOES TO SANDALSで活用するのは、当財団と協力企業とで回収したランニングシューズの中でも、“リユースが叶わない状態” のもの。これらのソール部分を粉砕し、使用済みタイヤとブレンドすることでサンダルソールを製作しました。イベントでは、参加者自らの手で鼻緒を通し、オリジナルのサンダルを完成させてもらいました。完成後は、実際にサンダルを履いて会場周辺を歩くワークショップも開催し、参加者にご満足いただけました。

─同企画立ち上げの経緯を教えてください。

東京マラソン財団:当初は、回収したシューズで学校のタータンマット(陸上競技用トレーニングゴムマット)製作を試みていました。将来のマラソン・オリンピック選手の誕生を願ってのことです。早速、タータンマットのメーカーに相談を持ちかけたのですが、使用済みシューズをリサイクルして作るのは難しい、と断られてしまいました。
 その際に「ここなら…」と紹介されたのが日東化工でした。

日東化工:正直、最初に連絡をいただいた段階では驚きと、「本当にできるのか?」という疑問の方が大きかったです。
 ただ、当社は独自のゴム粉砕・加工技術を持っており、使用済みタイヤをゴムチップマットにした実績、ノウハウもあります。
 また、当社は資源循環に強みを持つエンビプロホールディングスの一員です。同グループが掲げるミッション「持続可能社会実現の一翼を担う」のもと、当社も会社運営をしています。このミッションと、企画内容の根底にある考え方が合致していたので、お話をお受けすることにしました。

─タータンマットからサンダルへ路線変更したのはなぜですか?

東京マラソン財団:タータンマットでは、当財団の取り組みを知ってもらえる範囲が限定されてしまうからです。やるからには、現在進行形でランニングを楽しむランナーの皆さまにも、当財団のサステナビリティ事業を身近に感じて、共感してもらいたいと思いました。
 そこで、日東化工という“専門家”の目線も交え、ランナーに還元できて、かつこの活動に共感してもらえるものが何なのかを再考しました。途中からは、日東化工のみなさんの方が「こんなこともできますよ…!」と前のめりになって提案してくれて(笑)
 結果、サンダルであれば大会当日に持ってきて、リカバリーサンダル(疲労回復を目的としたサンダル)替わりに履いて帰ってもらえるだろうということで製作が決定しました。

─サンダルというと、履き心地も大事になりそうです。

日東化工:使用したのはシューズのソール部分なので、柔らかく、ほどよいクッション性が生まれました。
 ただ、これだけでは十分な耐久性を確保できないので、粉砕した使用済みタイヤをブレンドすることで耐久性を上げています。タイヤもシューズも、足元を支えるという共通の役割を持っているので、そういった意味でも親和性が出てよかったなと思います。

企画を通して、ランナー自身でリサイクル製品の価値を理解してもらう

─日東化工といえば B to B(対企業向け)製品の製造が本業ですよね。今回、サンダルというB to C(対消費者向け)製品を作るにあたってご苦労された点はありますか?


日東化工:リサイクル製品で満足いただける品質を保つには、丁寧な仕分け作業が欠かせません。技術的な話で言うと、リサイクルに使用するソール(靴底)部分を、アッパー(靴の甲部分)から綺麗に剥がして分ける作業に苦労しました。
 当社は、ゴムの粉砕技術についてはプロです。ただし、その前段階の “分ける” 作業には馴染みがない。しかも、様々なメーカーのシューズがあり、すぐ剥がれるものと全く剥がれないものがあったりして、そこの選別が一番大変でした。

─使用済みのシューズを新しく生まれ変わらせることは、想像以上に時間と労力を要するんですね。

日東化工:国内ではリサイクル製品に対し、まだまだ「通常製品(新品)よりも安価になるのでは?」と思われるケースが多いです。でも実際は、ソールとアッパーの仕分け作業のように、通常製品にはない工程が多数存在します。その分、手間と時間、そして技術を以て作られるものです。決して安価ではありません。

─確かに、“使える状態に戻す” ためにかかる時間と労力を知らなければ、再生材も古着のように “新品よりも安価なはずだ” と捉えてしまいますよね。

東京マラソン財団:展示会場では、こうしたリサイクル製品への理解を深めていただくために、RUN CYCLE
(SHOES TO SANDALS)の仕組みの説明にも力を入れました。

日東化工:SHOES TO SANDALSのコーナーでは、サンダル作りに入る前に、ランニングシューズの回収から再製品
化に至るまでの流れを、パネルを用いてご説明しました。
 参加者の中には海外からお越しの方もいらっしゃって、みなさん仕組みの説明に関心を寄せてくださいました。中には、「この体験を通して、自分も環境に貢献していることが実感できた」と感想を伝えてくださる方もいて、とても嬉しかったです。

日東化工が粉砕した使用済みタイヤ(左下)とランニングシューズのソール部分(左上)。
これらを組み合わせ、シート状(真ん中)に加工し、サンダル(右)に仕上げた。
タイヤのブラックの中でソールの鮮やかな色合いを引き立たせるために、タイヤ、ソール、それぞれのチップの配合量調整に繰り返し取り組んだという。
ベースの色は、公園で使用されるゴムチップを配合したグレーバージョンもあり、2色の中から好みのカラーをチョイスできる。
また、鼻緒部分に使われているのはパラシュートの紐。1本はその年の大会カラーに合わせたものを、もう1本は好きなカラーを選択できる。

サステナビリティへの取り組みは “他人事” じゃない。“自分事” として捉え直してもらうために

─RUN CYCLE(SHOES TO SANDALS)のように、一連の流れの中に個人が組み込まれることで、当事者意識が生まれる気がします。

日東化工営業統括本部第一営業部長 関口佳弘氏。日東化工で長年ゴムマットの営業を担当。
今回のプロジェクトではその経験を活かし、同社初の一般消費者向け製品開発に挑戦

東京マラソン財団:そうですね。当財団は、ランナーの皆さんに「スポーツと環境問題が無縁じゃない」と理解してもらいたいという思いで、サステナビリティ事業に取り組んでいます。 
 これは東京マラソンに参加するランナーだけでなく、全てのランニング愛好家に対して持っている思いです。
 ですから、SHOES TO SANDALSも当財団主催のイベントに留まらず、今後は日本全国のマラソン大会へ活動の幅を広げてほしいです。最終的には、当財団がサステナビリティ事業を通じて起こすアクションが、ランニング業界全体に広まっていくことが目標です。その結果、リサイクルが当たり前になって、関連業界、例えばシューズ業界でソールを剥がしやすい・リサイクルしやすいシューズを作ろうというムーブが生まれることを期待しています。

日東化工第一営業部 松井広美氏。入社2年目。得意な英語を
活かし、イベントでは海外からの来場者の対応を担当。プロジェクトメンバーからは「彼女なしには対応できなかった」と言われるほど。
日東化工第二営業部 新倉正爽氏。入社3年目。学生時代から環境問題への関心が高く、同社グループの考えに共感して入社。
取材では、リサイクル品を一般消費者に届ける難しさについて語ってくれた。

日東化工:我々としても、SHOES TO SANDALSをここで終わらせたくはありません。ですから、今後は同企画を当社だけでなく、エンビプロ・ホールディングスグループ全体で取り組んでいきたいです。そうすると、現状同企画でも活用しきれず、廃棄に回してしまうシューズをグループ内でサーマルリカバリーや熱処理するなど、できることも増えます。
 最終的には、SHOES TO SANDALSを「持続可能社会実現の一翼を担う」1つの事業にします。

【本記事は月刊ラバーインダストリー7月号に掲載】