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連載「つたえること・つたわるもの」⑧

きのふ・けふ。yesterday・today。和・英の「とき」感覚。

2017-01-10

出版ジャーナリスト 原山建郎

 一年の初めに、正月を詠んだ俳句と和歌から、和語(やまとことば)の「とき」感覚をさぐってみよう。

●去年今年(こぞことし)貫く棒の如きもの   高浜虚子(虚子五句集)
●命継ぐ深息しては去年今年(こぞことし)   石田波郷(酒中花以後)

 詞書(前書き)に「む月一日詠みはべりける」とある、後拾遺和歌集第一「春上」、小(こ)大(おほ)君(きみ)の和歌。
●いかにねておくるあしたに言ふ事ぞきのふこぞけふことし

 詞書に「ふる年に春立ちける日よめる」とある、古今集巻一「春哥上」巻頭、在原元方(ありはらのもとかた)の和歌。
●年のうちに春は來にけり一年(ひととせ)を去年(こぞ)とや言はむ今年(ことし)とや言はむ

 たとえば、こぞ(去年)、ことし(今年)、あした(朝・明日)、きのふ(昨日)、けふ(今日)など、「ひらがな」で記した和語のうち、現代に生きる私たちは、正仮名遣(旧仮名遣、歴史的仮名遣)の「きのふ」を「きのう」、「けふ」を「きょう」と発音する。これは、「私は」における「は」の発音が、奈良時代以前は「ぱ(pa)」、奈良~平安時代初期までは「ふぁ(fa)」、鎌倉時代ごろ「ハ行転呼(語中・語尾のハ行音がワ行音へと変化した現象)」を起こして現在の発音「わ(wa)」となったように、「きのふ・けふ」の「ふ(fu)」も「う(u)」と発音するようになった。もちろん、現代仮名遣いの「きのう・きょう」でも、おおよその意味は「伝わる」のだが、「ひらがな」の和語(やまとことば)が「傳へやう」とした「とき〔時・期・季〕」の感覚を知るために、『学研古語全訳辞典』(金田一晴彦監修、小久保崇明編集、学研教育出版、2014年)、『字訓』(白川静著、平凡社、1995年)を参考にしながら、六世紀ごろ中国から伝来した「昨日・今日」という漢字の訓読に、なぜ「きのふ・けふ」という和語を当てたのか、さらに「とき」をあらわす「ゆふ」「むかし」「いにしへ」「いま」も参照しながら、これらの和語を正仮名遣(やまとことば)で考えてみよう。

 こぞ (一)去年、(二)昨夜(さくや)。「き(来)ぞ」とも。また、(二)には今夜の意味とする説もある。【『学研古語全訳辞典』】/ことし〔今年・今歳〕 「このとし」の意。「こ」は「こよひ」「こぞ」の「こ」と同じく、最も近いものを指示する代名詞。「けふ」と同じように複合語である。漢字にはこのような語の構成をとりえないから「今日」「今年」のようにしるす。「とし」とは年穀(ねんこく)、年に一回の収穫をいう。【以下の出典はすべて『字訓』】/あした〔旦・朝〕 「ゆふべ」に対する語。「ゆふべ」の究極に「あした」がある。「ゆふべ」「よひ」「よなか」「あかとき」「あした」で夜の時間が指示される。「あくるあした」の意より、のちには明日を意味するようになった。/きのふ〔昨〕 前日。今日からいってその前の日をいう。「き」は「昨夜(きそ)」の「き」、「ふ」は「今日(けふ)」の「ふ」で、時を示す語であろう。昨は乍(さく)声。乍には「たちまち」の意があり、また過ぎゆく意がある。/けふ〔今日〕 この一日をいう。「けふ」の「け」は「けさ」の「け」で、「此(こ)」より転じたもの、「けふ」の「ふ」は「きのふ」の「ふ」のように日をいう。「け」は「來(く)」が語幹で、その活用の形であろうと考えられる。/ゆふ〔夕・夜・暮〕 日ぐれのときをいう。「ゆふ」の時間帯を「ゆふべ」という。一日の時間帯を「あさ」「ひる」「ゆふ」に区分し、「ゆふ」には「よる」をも含めていう。「ゆふ」には「あさ」、「ゆふべ」には「あした」がその対称の語である。/むかし〔昔〕 長い年月を経た、以前の時。「向(むか)ふ」と方向や時間を示す「し」が複合して、回想の向う方向をいう。対義語は「いま」。今(いま)と対立し、いまとは断絶した状態にある時をいう。類義語の「古(いにしへ)」は「往(い)にし方(へ)」で、いまの延長上にありながら、すでに消滅している時間をいう。/いま〔今〕 ただいま現在。「い」は強意の接頭語。「ま」は間(ま)の意であろう。

 つづいて、英語がもつ「とき(time,tide)」感覚を、古・中期英語までさかのぼって調べてみよう。

 たとえば「day」の語源は、昼間(一日)を表す「dæg」(古英語)で、dayに方向を示す前置詞「to」がつくと「to‐day(一日じゅう⇒今日)」、古英語のmorgen(朝)からきたmorrow(翌朝)につくと「to‐morrow(翌朝に向って⇒翌日・明日)」、night(夜)につくと「to‐night(今夜)」となる。「yesterday(昨日)」の「yester-」(古英語)は「すぐ前の」という意味で、「すぐ前の日=昨日」となる。また、昔を表す形容詞「ago」は、「過ぎ去る・通過する」を意味する中期英語の ago(n)からきている。

 和語(やまとことば)も英語(古・中期英語)も、ゆったりと流れる「とき」を、今に「傳へて」いる。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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