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連載「つたえること・つたわるもの」(85)

令和の〈えんどう豆〉、どんどん発芽・成育中! 〈教育講演〉その3

連載 2020-03-10

 講演の最後に、昨年12月、アフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師の言葉である「100の診療所より1本の用水路」から想起した、中国の古い歴史書のことば――「上医は国を医(いや)し、中医は民を医(いや)し、下医は病を医(いや)す」について話した。これは医師の「医」という漢字を、やまとことばで「いやす」と訓読したものだが、元の漢字は「矢」を匚(はこ)に収めている形で、その「矢」によって病魔を祓う呪術的な意味がある。漢字の「医」にはもうひとつ、「くすし」という訓読がある。古代日本では医師(治療師)のことを「薬師(やくし)」と書いて「くすし」と訓読した。「不思議な現象を起す」人、ミラクルワーカー(奇跡の人)という意味がある。また、疾病の「疾」は、「やまひ」と訓読するが、元の漢字には腋の下に「矢」を受けて負傷する意味がある。近代西洋医学でいえば、投薬・手術・放射線の治療法などが、古代医学でいう「矢」にあたるだろう。

 この「矢」の用い方をひとつ誤ると「患者」の命を奪う毒矢(ポイズン・アロー)になる。西洋医学を修め、さらに東方医学を学びつつ臨床に生かす医療者の「心あたたかな矢(ヒーリング・アロー)」によって、厄介な病魔もたちどころに退散することを大いに期待したい。「日本の“良医”に訴える」という遠藤さんの遺言は、「〈上医〉をめざす日本東方医学会の皆さんに向けられたもの」であると訴え、遠藤周作さんによって38年前にはじめられた「心あたたかな医療」への協力をお願いして、この日の教育講演を結んだ。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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