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ゴムの先端研究<第9回>

東京工業大学特任教授・理学博士 高田十志和氏

その他 2020-03-10

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第9回は、東京工業大学特任教授で理学博士の高田十志和氏。高田氏が進めるロタキサンを用いた架橋について話を聞いた。

 

ロタキサンを用いて架橋を研究

 ■ロタキサンを用いた架橋
 ロタキサンを用いて架橋を研究している。

 ロタキサンとは、環状分子の中を線状分子が貫通した構造で、結合がないのに環状分子が線状分子から抜けず、回転や併進運動に制限がない。環状分子にはクラウンエーテルやシクロデキストリンなどが用いられ、私の場合、クラウンエーテルを用いている。

ロタキサン


 ロタキサンは非常に性質が面白く、これをゴムで活用するにはどうすれば良いのか。ロタキサンは通常何段階かの合成が必要なため高価であり、それ自体を材料とするには無理がある。そのため、ロタキサンを架橋剤として活用しようと考えた。架橋はゴムにとって非常に重要であり、架橋に用いるならロタキサンは少量で済むためだ。

 一般的な化学架橋剤を用いると、架橋点は紐で結んだようになり架橋点が動くことはない。架橋点が動かないため、引張試験を行うと架橋点に応力が集中し、試験片はすぐに破断してしまう。一方、ロタキサンを架橋剤として用いると、架橋点の高分子鎖は動くことができる。そのため、試験片はよく伸びる。
 

架橋点に入れると応力分散し強靭化

 これはロタキサン架橋では、架橋点に応力集中が起こらないからだ。架橋点にある高分子鎖が動くことで、架橋点にかかる応力を分散させている。だから結合が切れにくく、試験片は強靱化する。ロタキサンの構造を架橋点に入れると、ゴムでなくても固いプラスチックでも効果がある。ガラス転移温度よりも低い、固い状態でもロタキサンで架橋した点は動いており、応力緩和は起こっている。

 こうした面白い性質が分かってくると、架橋とは一体何なのかという学術的な興味がさらに涌いてくる。一方で実用性材料としても理想形だと考えている。世の中に使えるところは多くありそうだ。

 今はモノマーの重合プロセスでロタキサン架橋剤を用いている。モノマー重合の段階から用いると容易にロタキサン架橋ができ、しかも強靭化できる。つまり、よく伸びつつ力もかかる材料ができる。一般的によく伸びる材料は力がかからないが、ロタキサン架橋はその二律背反を打破できる。

 モノマー重合の段階からロタキサンを投入すると強靭化に繋がるため、確かに多様な物性の優れた材料を得ることができるが、モノマーはゴム製品製造業にとっては扱いにくい。そのため、モノマーの重合で作られるゴムを練る段階でロタキサン架橋剤を投入すれば、簡単にロタキサン架橋ゴムが得られる、そういう材料を目指している。

 ■ニトリルオキシドと組み合わせる
 ロタキサンと並行して、ニトリルオキシドを用いたゴムの修飾や架橋も研究している。ニトリルオキシドは触媒や溶媒を用いることなく、固体状態でただ混ぜて加熱するだけでゴム高分子の修飾や架橋ができるというものだ。

 このニトリルオキシドの特性とロタキサンの特性を組み合わせた架橋剤を使えば、モノマー重合の段階から入れるのではなく、ゴムを練る段階で投入するだけでロタキサン架橋が可能になる。

 ■生産の単純化が必要
 我々のロタキサンはまだ実用化の段階に行っていない。ロタキサンは容易に作ることができず、価格も高価になる。そのため、ここに少しブレイクスルーが必要だ。

 コストの点も重要だが、最も重要なことは生産段階をもう少し単純化した形にすることだ。大量生産に向いていないと作る時間もコストもかかる。それでは実用化には程遠い。例えば原料から1ステップ、2ステップで使えるところまで持っていかなければ、企業はなかなか使おうとしないだろう。

 もっとも今はテストの段階のため、様々なことができる。まずは、多くの人にロタキサンの性能を確かめてもらうことが重要だ。生産プロセスをどう簡単にしていくかは次のステップになる。

 大学で研究、開発したもので、世の中に出ていくものはなかなかない。ロタキサン架橋剤で実際に使われるものが一つでも世の中に出れば非常に嬉しい。

 ■原理を突き詰める
 私は科学者のため、なぜそうなっているのかの原理を突き詰めていきたい。その原理が分かれば、どう設計するとどんな物性が出るかが予想できる。そこまで持っていかなければ、研究者として満足はできないだろう。なぜそうなっているのかという原理を解き明かし、材料設計に活かせるレベルまで持っていくことが非常に重要だ。

 架橋とは一体何か。その最適なモデルを示したい。そのためには仮説を考え、実験を繰り返すことで確かめなければならないと思う。

 ■行き着く先を見る
 私は大学生の頃は工学部、大学院生の頃は理学部だった。大学は工学部の人も理学部の人も二刀流になった方が良いと思うときがある。

 純粋な興味から真理を探究し、学問の発展に資するというのも当然大事な使命だが、一方で自分の行っている研究の行き着く先を考えて研究する必要もある。自分の研究が基礎となり、何かしら世に見える形で出て行く。行き着く先を見ることで、自分の行っている基礎研究の意義を改めて認識でき、あるいはもっと深く考えることができると思う。

 自分の研究の本質について、出口を眺めることでより深めることができる。興味を満たすだけでなく、世の役に立っているという喜びも感じたいものだ。

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