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ゴムの先端研究<11回>

京都工芸繊維大学工芸科学研究科バイオベースマテリアル学専攻教授・博士(工学)・日本ゴム協会副会長櫻井伸一氏

その他 2020-09-15

外部刺激与えつつX線散乱による構造解析

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第11回は、京都工芸繊維大学工芸科学研究科バイオベースマテリアル学専攻教授で博士(工学)、日本ゴム協会副会長の櫻井伸一氏。櫻井氏が進めるX線散乱を用いた構造解析について話を聞いた。

 ■X線散乱による構造解析
 X線散乱による構造解析の研究を進めている。X線散乱を用いると、時々刻々と変化する構造を調べることができる。その点は、顕微鏡を用いた構造解析とは異なるメリットだ。

 熱可塑性エラストマーとして用いられるブロック共重合体やポリマーブレンドを主な対象とし、相分離の階層構造を研究しているが、私の場合は材料を引っ張ったり、温度勾配を与えるなど、外部から様々な刺激を与えている。

 引っ張ることで変形させると、中の構造は変化していく。構造が物性を決定するため、構造が変化するということは物性も変化することになる。構造と物性は相関しながら進んでいくため、全く引っ張らない状態から引っ張った時の構造や物性を推定することは難しい。構造と物性は変化の中で連続的に考えないといけない。構造と物性の相関を明らかにすることで、より良い物性を得るための構造の基礎知識の蓄積に繋がっていると考えている。

 一方、温度勾配は熱い部分と冷たい部分を設け、熱の差による対流が発生することを用いている。そうすると、例えば水と油のような相分離のものがかき混ぜられるという効果が出てきて、今までになかった構造が生まれることになる。

 例えば水と油で構成されるドレッシングを振った時、それは一瞬混ざるものの、油が水に浮いた、二層に分かれた状態の方が安定なため、時々刻々とそこへ向かって変化していく。ところが、そこに温度勾配を加えると、最終的には二層に分かれるかもしれないが、そことはまた別の方向に向かったり、あるいはどこかで変化が止まったりするかもしれない。温度勾配という新たなファクターを加えることで、引っ張る時と同様に最終的にはより良い物性を得るための構造の基礎知識の蓄積に繋がっていくと考えている。

 引っ張ることや温度勾配を加えることで、静的な構造だけでなく、動的な構造と物性との相関関係を解き明かし、新規材料の設計指針に繋がればと考えている。

 ■天然ゴムにも着手
 研究の主な対象はブロック共重合体やポリマーブレンドだが、最近は天然ゴムについても伸長結晶化の研究に取り組み始めた。

 よく知られていることだが、天然ゴムは引っ張っていくと結晶化する。例えば航空機用タイヤには天然ゴムが用いられるが、それは着陸時の瞬間的な大きな力に対し、天然ゴムは結晶化するため耐久性が高いと解釈されている。

 天然ゴムの伸長結晶化の実験は以前から行われている。そのため、私は新しい観点として二軸延伸しながらX線を照射することにした。これまで一軸延伸は行われていたが、文献を調べても二軸延伸はほとんどないようだ。例えばフィルムの二軸延伸装置は世間に数あるが、それはフィルムが2倍くらい伸ばせば切れてしまうためで、10倍くらい伸びる天然ゴムは、まず大きな装置の開発から進めていかなければならない。

より良い物性を得るための構造の基礎知識蓄積

 ■研究の将来に見据えるもの
 私が所属するバイオベースマテリアル学専攻は、石油のような枯渇資源への依存をなくすことを目指している。植物資源を用いたカーボンニュートラルや生分解性により、石油資源を使うことなく、海洋プラスチック問題を解決するような貢献を目指し設立された専攻だ。

 そうした考えをゴムで進めると、どういう貢献ができるのか。例えば環境に優しいタイヤづくりに繋げるための貢献ができると考えている。

 タイヤは、路面と接触することで小さなタイヤカスが生じ、これが雨によって海に流される。ただ、比重の重いカーボンブラックが含まれているため、海に浮くわけではなく海底に沈殿していると考えられる。

 そうした点をクリアするためにも、廃棄時に生分解するタイヤがあれば良いのではないかと思う。自動車に装着され、走行している間はタイヤとしての機能を果たし、廃棄後は分解が進む。そういうスイッチングのメカニズムを考えている研究者がいる。現状で実現はなかなか難しいが、光分解性や生分解性といった自然分解にスイッチングのメカニズムが導入できれば良い。

 ただ、そこで重要なことは、高分子の材料自体として自然分解のメカニズムが導入できたとしても、それでタイヤを生産した場合、タイヤとしての性能を満たすことができないと思われる点だ。廃棄後に自然分解でき、かつ使用時のタイヤ要求性能を満たすにはどうすれば良いのか。高分子の構造を作り変え、それに向いている構造にしなければならない。そこに私が貢献できると考えている。

 ナノ構造を設計することでより良い物性を作り出すには、それがどういう構造になっていて、その構造と物性の相関関係が理解できないといけない。構造と物性の因果関係を調べ、構造の最適解を導き出す必要がある。今後も引っ張ったり、温度勾配を与えるなど外的要因を加えたりしながら、材料の構造と物性について研究していきたいと思う。

 ■11月のエラストマー討論会はオンラインで聴講可能
 11月26~27日に開催される日本ゴム協会のエラストマー討論会は、今年はオンラインで聴講できる。日本ゴム協会の会員になってもらえれば、格安の料金で参加登録できるので、余所では聞けない興味深い最新の研究発表(海外の発表者も多数)をぜひ聴講して欲しい。

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