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ゴムの先端研究<第15回>

横浜ゴム 理事・研究先行開発本部材料機能研究室エグゼクティブフェロー・研究室長 日本ゴム協会副会長・博士(工学)網野 直也氏

その他 2021-03-08

ゴムと路面の接地面や金属とゴムの接着層の可視化に取り組む

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第15回は、横浜ゴム理事・研究先行開発本部材料機能研究室エグゼクティブフェロー・研究室長で日本ゴム協会副会長、博士(工学)の網野直也氏。網野氏が進める可視化技術の研究について話を聞いた。

 ■現在進めている研究
 企業に勤務しているため、どちらかと言えば、一つの分野を深く掘り下げていくのではなく、研究範囲としては広い。製品として必要な様々な技術を包括的に統合しながら大きく考え、見ることができるのは、企業で研究を進める面白さだ。

 求められる技術、研究対象はその時々によって変化する。現在は、起こっている現象をいかに画像として見るかという可視化技術の研究を進めており、中でもゴムと路面の接地面や金属とゴムの接着層の可視化について取り組んでいる。

起きている現象を画像にし把握する

 ■ゴムと路面の接地面を可視化
 ゴムと路面の接地面については、タイヤが路面に接地し摩擦している状態の接触の様子を調べている。

 路面に模した透明な板の上に水を張り、そこでタイヤを回転させながら光学的な手法を用いて観察している。本来、タイヤと路面の間に水が存在すると、うまく観察できないこともあるが、光学的に工夫した特殊な装置をRADIC(研究開発センター、神奈川県平塚市)に設置し、水が存在しても接地している部分だけが見え、接地状態を観察できるようにしている。

 光を用いる利点は、1秒間に数万枚撮影できる高速度カメラを使用できる点だ。接地面を高速度カメラで映すと、ゴムは接地の際、摩擦中に付着と滑りを繰り返すことによって摩擦力が鋸歯状に振動する現象であるスティックスリップを起こしていることが分かった。時速10キロメートルで1秒間に4,000回も付着と滑りを繰り返しており、それがゴムの摩擦力に繋がっていると考えられる。

 接地面を可視化することによって、接地の際にどのような現象が起こっているかを知ることができる。タイヤ開発にとって非常に重要なことだ。

 また、接地面を可視化することによって、摩擦機構の解明にも繋げていきたいと考えている。ゴムの摩擦を表す数式は多く提案されているが、あらゆるタイヤの開発に万能に使えるものはない。そのため、その解明にも活用している。

 一方で課題もある。光を用いるため、接地面が平らかつ透明である必要がある点だ。そのため、実際の路面に少しでも近づけていきたいと考えている。解決するのは容易ではないが、どうすればより現実の走行状態に近づけていけるかを考えていきたい。

 ■金属とゴムの接着層の可視化
 金属とゴムの接着層については電子顕微鏡を用いて調べている。

 タイヤは補強のためにスチールコードが用いられており、そのスチールコードの表面は銅と亜鉛の合金である黄銅でコーティングされている。ただ、その接着力は熱や水分などによって低下する。そのため、黄銅とゴムの接着層の構造がどのようになっているのかを観察している。

 接着層を見るために用いているのが、FIB切削だ。接着層の断面を見るために、ガリウムのイオンビームを試料に照射し、試料を削りながら観察している。削った表面を観察し、再び削りまた表面を観察することで、接着層をスライス画像として収め、そのスライス画像を組み立てることによって接着層の3次元像を構築し、さらに接着層を構成する各層の成分ごとに色付けを行っている。接着層を3次元で観察した例はこれまでになかった。

 観察には、未老化の試料と湿熱老化後の試料を用いた。その結果、未老化では黄銅とゴムの間に接着層が一様に存在していたが、湿熱老化後では未老化に比べ接着層が厚くなるとともに、接着層がなくゴムと鉄が直接接している部分や空隙が存在することが分かった。これは水分によって黄銅中の銅がイオン化してゴム中に流出し、ゴム中の硫黄と反応することで接着層が厚くなり、さらに空隙などが生成されることで、もろくなっていると考えられる。

 接着層の可視化にも課題はある。接着層はゴムと銅と亜鉛で形成されているが、これらが本当に化学的に接着しているのかを突き止めたいと考えている。現状でもある程度は分析できるが、まだまだ万能ではない。原子、分子の1つずつが観察できるようになれば、そこは突き止めることができると思う。

 ■より良いタイヤを開発するために
 いずれの研究も、より良いタイヤの開発に繋げていくため非常に重要だ。より良いタイヤのためには、より良い配合が必要になるが、その配合や加工条件を考えるにあたっては、ゴムの中で何が起きているのか、なぜ劣化するのかといったことを知見として持っている必要がある。

 スタッドレスタイヤを例に挙げると、雪氷上での摩擦力を向上させる配合剤は種々考えられるが、実際に効果のあるものは限られる。配合したものが適したものなのかどうかを判断する、それを用いて開発を進めていくための評価の指標が必要になる。

 タイヤは様々な性能をバランスさせなければならず、また近年は商品の開発数も増加している。配合のニーズは多様化しており、誰もが適切な配合を設計できるようにするためには、誰もが理屈を把握していることが望ましい。

 可視化によって、起きている現象を把握し、それとタイヤの特性との間をどう取り持っていくのか。タイヤの性能へフィードバックを考えながら可視化の研究を進めている。より良い製品の開発に繋げなければ、企業で研究している意味はないと考えている。

 ■日本ゴム協会2021年年次大会
 日本ゴム協会では5月20、21日に名古屋プライムセントラルタワー13階(愛知県名古屋市)で2021年年次大会を開催する。

 2021年年次大会では、従来の研究発表に加えてトピックテーマ、特別セッション、英語セッションを準備している。

 トピックテーマでは「マテリアルズ・インフォマティクス」を取り上げ、特別セッションでは「エラストマーの高機能化とそれを支える計測・解析技術」を設けている。また、ゴム理論の基礎を学べる場としてゴム理論入門コースを設けており、今年は「今さら聞けないゴムの架橋」をセッションテーマに「ゴムの架橋構造と解析、加硫の理論」を開催する。多くの人に参加して欲しい。

 日本ゴム協会では正会員、学生会員、法人(賛助会員)の入会を勧めている。日本ゴム協会に入会すると、ゴム・エラストマーに関する研究、技術領域における先進的情報や新しい知見に、いち早くかつ広く接する機会が格段に増える。また、会員には「日本ゴム協会誌」が毎月配布され、年次大会、夏期講座、エラストマー討論会や研究発表会、シンポジウム、講演会、各支部主催の諸行事に会員料金で参加できる。

 日本ゴム協会に入会してもらえればと思う。

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