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ゴムの先端研究<第16回>

名古屋工業大学大学院工学研究科生命・応用化学専攻准教授・博士(工学)山本勝宏氏

その他 2021-04-19

小角X線散乱を用いた高分子のナノ構造解析中心に研究

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第16回は、名古屋工業大学大学院工学研究科生命・応用化学専攻准教授で博士(工学)の山本勝宏氏。山本氏が進めるX線を用いた構造解析の研究について話を聞いた。

小角X線散乱を用いたナノ構造解析

 小角X線散乱を用いた高分子のナノ構造解析を中心に研究を進め、構造と物性がどう相関しているのかを調べている。

 X線は透過性が強く、ゴムのように不透明なものの構造を見ることが可能だ。また、X線散乱は1オングストロームオーダーから100ナノオーダーまでの非常に小さなスケールを見ることに適しており、秒スケール、分スケールの変化にも追随できる。ゴムを引っ張りながら見るなど、変化を見ることに適している。設備は大型放射光施設(SPring-8)や高エネルギー加速器研究機構、あいちシンクロトロン光センターを活用している。

 構造と物性の相関についてゴムを例にすると、引っ張った際の構造の変化と物性との相関、ゴムの架橋に用いられる硫黄の結合様式、硫黄のゴム材料中での分布と物性の相関といった具合だ。構造と物性の相関を明らかにすることは、新しい材料ができるための基礎、モデルになる。

 近年、X線の波長を変化させることによって、ある特定の波長だけを吸収できる成分(元素)を浮き上がらせて見ることができるようになっている。ゴムで言えば、これまではゴムとフィラーのように2成分でしか見ることができなかったが、波長を変えることで亜鉛やシリカだけといった具合に特化して見ることが可能だ。

 ただ、その手法をそのまま実材料に適用し解析を行っても、実材料は構造が複雑で含まれる成分の形も様々なため、出てきた答えが果たして正しいのかの判断が非常に難しい。そのため、まずは高分子設計や材料設計において形や分布がハッキリとしているモデルとなるものにその手法を用い、多成分の解析においても有用であることを示す必要があるだろう。構造解析したものを理解するために、事前にモデルを準備しておき、そのモデルを用いて理解する。それを多成分の実材料に展開すれば、例えばこれが亜鉛であり、これがシリカといったことが理解でき、それがどのように分布しているかも見ることができる。

 また、近年は高強度X線が利用できることからマイクロビームやナノビームという、X線のビームの太さを絞ることができるようになってきた。現在の太さは数ミクロンほどだが、東北に建設中の次世代放射光施設では1ミクロンをきるレベルまで到達可能と言われている。

 そのレベルまで行くと、顕微で試料をスキャンしマッピングするといったアプローチも出てくると思う。もちろん、その場合は薄膜にしなければならないが、そこで出てきたものと厚みのある試料にX線散乱を用いて得た三次元統計学的データとの答えがどのくらいマッチするかが分かるようになる。統計学的に見たものとマッピングしたものとが合致していると、X線散乱にとって自信になるだろう。

テンダーX線を用いた研究

 波長が5オングストロームほどで、通常、散乱法でよく用いられるX線(波長1オングストローム)よりも波長の長いテンダーX線を用いた小角散乱による解析も行っている。テンダーX線は高分子に用いた場合、硫黄やリンを特化して見るのに適した波長のX線だ。通常、テンダーX線は真空下で実験を行わなければならないが、水を含んだウェットな環境で散乱法を用いて実験を行おうと、まさに試行している。これは当研究室のオリジナルだ。

 対象としている燃料電池膜やハイドロゲル、イオン交換膜には、硫黄を含むスルホン基と水のクラスターが存在する。ポリマー、水がある環境下でスルホン基がどのように分布しているのか、水のクラスターを取り囲むように分布するのか、それとも水のクラスターの中にも均一に分布するのかといったことは、これまで誰も見たことがない。そこは見てみたいと考えている。

 スルホン基の分布がプロトン電導度のような機能とどう関連しているのかは分からない。ただ、見ることによって、例えばスルホン基が並んでいる方が良い、並んでいない方が良いといったモデルを作ることに繋がると考えている。
 今はまだ誰も見たことがないので、まず見ることができるかどうかではあるが、理論上は見えると思う。1年以内には何かしらの答えを出したい。

日本ゴム協会2021年年次大会

 日本ゴム協会では5月20、21日に名古屋プライムセントラルタワー13階(愛知県名古屋市)で2021年年次大会を開催する。

 従来の研究発表、トピックテーマ、特別セッション、英語セッションのほか、ゴム理論の基礎を学べるゴム理論入門コースも設けている。

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