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ゴムの先端研究<14回>

京都工芸繊維大学材料化学系教授 博士(工学)浦山健治氏

その他 2020-12-22

高分子ソフトマテリアルの力学物性、刺激応答特性等を研究

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第14回は、京都工芸繊維大学材料化学系教授で博士(工学)の浦山健治氏。浦山氏が進める高分子ソフトマテリアルの力学物性、刺激応答特性等の研究について話を聞いた。

二軸伸長装置用いて多様なひずみ状態での応答を調べる

 ■エラストマーやゲルの二軸伸長特性を測定
 直交する二方向に引っ張る二軸伸長装置を用いてエラストマーやゲルの力学物性を多様なひずみ状態で測定している。

 一般的にエラストマーやゲルの力学物性は、単純な一方向の引っ張りや圧縮で調べられている。しかし、例えばタイヤの変形を考えても、ゴムは複雑な変形を受けており、それは一軸引っ張りや圧縮という単純なものではない。ゴム製品の使用時の複雑な変形に対する応答は、単純な変形のデータから推測することは原理的に非常に困難だ。

 私が有する二軸伸長装置は直交するxとyの二方向のひずみを自在に変えることができ、各方向の張力を測定できる。x、y方向のひずみの組み合わせを様々に変えると、非常に多くのひずみ状態での応答を調べることができる。そのような多様な変形下でのデータがあると、当該材料の任意の変形下での応答の予測やシミュレーションの確度が非常に増してくる。二軸伸長測定の重要性は古くから指摘されているが、装置の複雑性が障害になるためか、実際に行っている研究室は国内外でも非常に珍しい。

 また、含水率が90%以上で、固体だが非常に柔らかく、自重で変形してしまうような超ソフトゲル材料を対象とした二軸伸長装置も有している。このような超ソフト材料を測定できる二軸伸長装置は世界で唯一だろう。この装置では、ゲルの自重変形の影響を除くために、浮力を利用して液体中でゲルを伸長している。最近は非常に柔らかい材料、例えば人体に活かせるような材料のニーズがあり、その詳しい力学物性を調べるには非常に強力な手段になる。

 二軸伸長のような複雑な測定を必須として行わなくても、タイヤのような高信頼性が要求される用途でゴムが使用されている現状は,経験的な類推が材料設計の基盤の多くを占めているにもかかわらず、その類推の信頼性はかなり高いことを示している。ただ、学問的に解明されていない部分を、経験的な類推に頼っているとその先に発展はなく、新しい材料が出てきた時にも対応できないということがあるだろう。

 タイヤのような高弾性ゴムから高吸水性ゲルのような非常に柔らかい材料に至るまで、様々なひずみ状態で二軸伸長データを取得できる。このようなデータは、これらの材料の力学応答のシミュレーション予測や理論の構築のための確固たる基礎となり、材料の力学的性質の本質を知る上での一つの武器になると考えている。

 ■天然ゴムの研究にも活かす
 科学技術振興機構(JST)の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)で、2015年から5年間、ゴムのき裂の進展機構についてブリヂストンと共同で研究していた。

 タイヤは石を踏んだりすることで、小さなき裂が頻繁に入るが、重要なことは、そのき裂が全体に走らないよう食い止めることであり、そのためにはき裂がどのように進展するかを知る必要がある。

 研究では、進展するき裂について、ハイスピードカメラを用いた観察とゴム表面に打たれたパターンの変形から局所的なひずみ分布を評価するデジタルイメージ相関法を用いた。非常に遅い速度から音速を超える超音速まで広範囲にわたる進展速度のき裂を対象とし、き裂先端の形状や局所ひずみ場などの特性が速度域によって大きく変化することを明らかにした。

 今年11月からは、JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)でゴムの伸長結晶化に関する研究プロジェクトを京都大学、ブリヂストンと共同で5年間進めることになり、その代表を務めている。

 航空機タイヤなど高い信頼性が必要な用途には、依然として天然ゴムが多く使用されているが、主要な理由の一つが天然ゴムの伸長結晶化だ。引っ張ると結晶化して自己補強が起こり強靭化するのだが、天然ゴムが合成ゴムに比して優れた伸長結晶化性能を示す理由は、高分子科学分野の古くからの未解決問題のひとつだ。従来説とは異なるアプローチで謎を解くとともに、その知見を生かして天然ゴムの伸長結晶化による自己補強効果を向上させ、合成ゴムの性能も天然ゴムまで引き上げることを目指している。

 天然ゴムのひずみ誘起結晶化はき裂耐性の向上にも寄与していることが知られている。き裂は様々なひずみ状態での進展があるが、これまでは単純なひずみ状態でしか調べられていない。前述した二軸伸長装置を用いた、二軸ひずみ状態でのき裂進展挙動についても研究を進めている。現実のき裂のひずみ状態は複雑なものであり、多軸ひずみ状態での研究から貴重な知見が得られると期待している。

液晶エラストマーの奇異な物性の解析や機能性創出に繋がる現象を探索

 ■液晶エラストマー
 ゴムと液晶とを組み合わせた液晶エラストマーの刺激応答特性や力学特性を解析する研究も進めている。液晶エラストマーには、ゴム弾性と液晶性のカップリングによって、液晶の分子配向とゴムのマクロな変形が強く相関するというユニークな性質がある。液晶は電場や磁場、温度などによって分子の配向方向や配向度が変化する性質をもつ。これらの性質を利用すると、液晶エラストマーを様々な外部刺激によって変形させることができる。また、液晶配向を制御すれば、多様な変形を誘起することができる。我々はこれまでに、配向度を増減させる温度変化を刺激とし、屈曲変形、ねじれ変形、表面凹凸変化などを実証している。液晶が有名なディスプレイ用途では、電場による液晶の配向変化が引き起こす電気光学効果が利用されている。我々は液晶エラストマーを溶媒で膨潤させたゲルの電場応答挙動を調べ、電気光学効果と同時にマクロ変形が生じること(電気力学効果)を実証している。最近では、液晶エラストマーに液晶配向の微細パターニングを施すと、熱刺激によって平面状から折り紙のような複雑な造形ができることが国内外で盛んに報告されている。

 これまで液晶と高分子の組み合わせといえば、液晶分子の剛直性を生かしたケブラーのような固く強い繊維での実用化が進んでいたが、液晶エラストマーはそれとは全く違うソフト材料への展開だ。液晶は、当初は液体と結晶の中間相という基礎研究の対象だったが、ディスプレイというアプリケーションを通して爆発的に応用研究が広がった。液晶エラストマーにもそのようなキラーアプリケーションが現れると、一気に実用化が進むだろう。外部刺激で駆動するアクチュエーターやセンサーというアプリケーションの出口が期待される。

 液晶エラストマーは機能性材料としての応用研究が盛んだが、私は基礎研究に軸足を起き、液晶とゴムのカップリングが生む様々な奇異な物性の解析や機能性の創出につながる現象の探索を行っていきたい。定量的なデータをきちんと出し、理論やシミュレーションの専門家と協力して液晶エラストマーの分野を発展させていければと思っている。

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