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ゴムの先端研究<13回>

ロンドン大学クイーンメアリー校エンジニアリングアンドマテリアルサイエンス学科 客員教授 芥川恵造氏

その他 2020-11-16

分子構造考慮したゴムの力学応答モデル化を研究

 シリーズ「ゴムの先端研究」の第13回は、ロンドン大学クイーンメアリー校(Queen Mary University of London)・エンジニアリングアンドマテリアルサイエンス学科(School of Engineering & Materials Science)客員教授の芥川恵造氏。芥川氏が進めるゴムの力学応答のモデル化やロンドン大学での研究について話を聞いた。

■分子構造を考慮したゴムの力学応答モデル
 分子構造を考慮したゴムの力学応答モデル化の研究を行っている。

 ゴムは1立方センチメートルあたりに炭素原子が約10の22乗個ほどあり、各々が1秒間に数百億回転している。そのためゴムは流動性があり、摩擦が高く振動吸収性が良いといった特徴をもつ。その反面、他の材料に比べて環境により特性が変化し易く寿命も短いという弱みもある。さらに、これら弱みを補うために充填剤など多種の材料が配合されることにより複雑な不均一構造を形成している。これだけ多数の物質が不均一かつダイナミックに動いている状態を、分子動力学といった計算だけで表すことは非常に難しく、計算の前にワンクッション必要ではないかという議論がある。そこでゴムの力学応答に分子レベルの情報パラメータを含めたモデルが必要とされている。ゴムの力学応答のモデル化によって方向性が見えてきたら、これらパラメータを介して分子動力学を用いて最適化する。いきなり分子動力学を用いるのではなく、ゴムの力学応答モデルを挟んだ設計手法の方が、実際のモノづくりにとって適していると思う。

 ゴムの力学応答のモデル化だけでなく、そこに分子構造を考慮したのはなぜかというと、応力-ひずみ曲線に対して、ばね、ダッシュポット(粘性摩擦により動きに抵抗するダンパー)を用いて粘弾性を考慮したとしても、ゴムの中に実際にばねやダッシュポットがあるわけではないので、分子構造と結びつけることが難しい。ゴムはゴム分子と自由体積で構成されており、その分子間の力が作用して、ばねやダッシュポットのような機能を発現している。

 分子構造と力学応答の関係性はまだ明確に示されていない。そこは非常に歯痒い部分だ。極端な話をすると、合成ゴムの分子設計や充填剤の形態を設計したりする人とゴムの力学応答のモデルを用いて例えばタイヤを設計する人の間には、まだ大きなギャップがある。分子構造とタイヤにした時の力学応答との関係は、経験的には分かっているものの、きちんと繋がっていない。タイヤに使用するゴムの力学応答をモデル化した時に、分子レベルの情報も盛り込んでいく必要があると考えている。そうすれば、材料を設計する人も構造を設計する人も、最新のデジタル技術を活用しながらゴムの分子レベルの情報を意識して、顧客がタイヤに要求する技術レベルを最大限に高めることができる。

 現在使われている材料は、良いものができたので、それを現場がどう使いこなすかだった。しかし、力学応答を分子設計まで盛り込みモデル化したものを用いると、これまでと違う様々な要求、つまり急激に変化する社会ニーズに対して分子構造まで含めて一元化した精密な製品機能設計や性能予測技術でいち早く応えることができるようになる。今までなかなか上手くいかず、歯痒かったその部分を何とか繋げたいというのが私の思いで、そのために実験を繰り返し、モデルを作っていく必要があると考えている。

 ■ロンドン大学での研究-摩耗とき裂進展、自己修復など4つの研究受けもつ
 研究の内容は幅広く、①カーボンブラックなどの補強剤と関係づけた大型タイヤの摩耗とき裂進展、②大型ポンプ用ゴムライナーの自己修復、③防振用ゴム材料の物理的劣化と化学的劣化のモデル化、④ゴムの破壊とき裂進展基盤技術開発の4つの研究を受けもっている。

 カーボンブラックなどの補強剤と関係づけた大型タイヤの摩耗とき裂進展は、丸かったり長かったり様々な充填剤の構造を、実際にタイヤへ応用した場合、どうなるかというものだ。充填剤の構造を系統的に変えた時、ゴムのき裂進展や破壊応答にどう関係してくるのか。経験的に分かっている部分は多いが、考え方の見直し、モデル化を行いたい。

 ターゲットとしているのは、建設・鉱山車両用タイヤだ。巨大な岩が衝突する、岩を踏むといった非常に大きな入力の時にどのようになるかをターゲットにしている。研究は基礎の部分を行うが、製品の使用環境は常に意識している。

 充填剤の形態によって、破壊の進展は全く異なる。タイヤメーカーは経験でコントロールしているが、そこを明確にしたいと考えている。マクロな入力の差だけでなく、ミクロな温度、速度、ひずみなどが変化すると、最適な形態も変わってくると考えている。

 大型ポンプ用ゴムライナーの自己修復は、例えば岩石などが混ざっているスラリー(泥漿)を流す場合、ポンプ内側のゴムライナーが傷つく。こういった場合は配合で傷つきにくくするのが王道だが、自己修復のニーズがある。自己修復の場合は分子設計的な側面があり、ポリマーの分子構造をどういった形にすると自己修復性が出てくるかということを、ミクロ構造を見つつ自己修復を含めた力学応答の面から検討している。

 ゴムの自己修復は加硫したものが切れて、再びくっついた時に元の加硫ゴム並みの強さになるかがポイントになる。加硫は熱を用いるが、結合を戻すのにも何かしらのエネルギーが必要になる。材料をどう設計するかに加え、界面を再架橋するには何を用いるかを含め考えていきたい。

 自己修復は大型ポンプ用ゴムライナー以外にも応用でき、リサイクルにも繋がるものだ。ゴムの自己修復については多くの企業、大学で取り組まれているが、まだ実用化の範囲は限定的だと思う。私としては、切れた部分をくっつけた時に、ゴム分子がどういう力学的相互作用でくっつくのか、どう拡散していくのかといったモデルを提示できればと思う。

 防振用ゴム材料の物理的劣化と化学的劣化では、自由体積に着目して力学応答による物理的劣化、温度など環境による化学的劣化をモデル化しようと考えている。手法は、最近、ゴムの粘弾性応答のモデル化に有効であることが示された分数階微積分学 (fractional calculus)を用いることを考えている。

 分数階微積分学とは何かというと、一般的に距離を時間で微分すると速度になり、速度を時間で微分すると加速度になるが、分数階微積分学の考え方では、距離と速度、加速度の間は離散的ではなく、その間に連続して起こっている現象があるという考え方だ。ゴムの膨潤体積変化を時間の平方根で微分すると膨潤物質のゴム中での拡散速度が得られることはその一例だ。この手法をゴムの劣化に適用し、劣化を時間の関数としてモデル化することを考えている。

 ゴムの破壊とき裂進展基盤技術開発については、所属する研究室の長年の得意分野であり、ゴムを繰り返し変形させた時に傷が入っていた場合、その傷がどう大きくなっていくのか。それが入力と環境でどう変わるのかをモデル化し様々なゴム製品の寿命を予測するものだ。

■ゴム協会誌で好評な総説
 日本ゴム協会では2002年からゴム協会誌の編集委員を、2018、2019年には編集委員長を務めた。ゴム協会誌の強みは、総説にあると思う。ある領域に関するまとめの資料が非常に好評で、総合学術電子ジャーナルサイト「J-STAGE」では毎月3~4万件がダウンロードされている。そのうち2割が海外からのものだ。日本ゴム協会誌が様々なところで見られている。

 ただ、ゴムに限った話ではないが、論文を書く時間を確保するのが難しくなってきている中で、日本で書かれる論文数が減っているようだ。この点については深刻に受け止めた方が良いと思う。

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