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連載「つたえること・つたわるもの」(85)

令和の〈えんどう豆〉、どんどん発芽・成育中! 〈教育講演〉その3

連載 2020-03-10

◆「どうだ、トキちゃん、肛門科の女医にならんか」
 『日本ではじめての「女性」による「痔」の専門医』、これはマリーゴールドクリニックのHPに載っている、山口トキコさんの「ひと言」プロフィール。第37回日本東方医学会では、会頭を務められた。

 医学生時代の山口さんは劇団樹座を通して遠藤さんと知り合い、座付きドクターとなる。その後、1983年、東京・南青山の平田肛門科医院で痔(血栓性外痔核)の日帰り手術を受けた遠藤さんは、その待合室の様子を、山口さんに次のように語ったという。

 「待合室には、若い女性が円座クッションに座って、恥ずかしそうにうつむいていたよ。私はジロジロ見ていたわけじゃないが、かわいそうな話だ。どうだ、トキちゃん、肛門科の女医にならんか」

 この「どうだ、トキちゃん、肛門科の女医にならんか」と発したひと言が、山口さんの運命を変えた。

 2000年2月1日、マリーゴールドクリニック(肛門科、胃腸科、内科)をオープンした。日々の診療では、何よりも「患者の訴えに耳を傾ける」心構えを大切にする山口さんは、仮にEBM(治療の科学的根拠)が曖昧な民間療法であっても、頭から否定することはしない。まず、患者の訴えや言い分に耳を傾け、その話を聴いてあげることが、患者の不安を受けとめ、それが心の励みになるのなら、いくらでも聴く努力を惜しまない。

 「患者に本当のことを、すべて言ってもらわないと、よい治療はできません。患者と医師の間で、もっとも大切なことはお互いの信頼関係だと思います」

 かつて医大生だった山口さんが、初めて遠藤さんと出会った35年前、ときを同じくして始まった「心あたたかな医療」の願いは、そのまま山口さんの診療に受け継がれている。

◆「医者の仕事は神父といっしょ。人間の魂に手を突っ込む仕事です」
 現在は、山梨県甲府市のふじ内科クリニック院長で、在宅ホスピス医の内藤いづみさんがまだ研修医だったころ、遠藤さんが寄稿した讀賣新聞の連載エッセイに感激して、新聞社に手紙を出した。いまの医療システムではガンの患者への対応が納得できない、医者としてつらくて患者に向かい合えない、このまま医者の仕事をつづける自信がないという、悲痛な思いがあったからだ。すると「電話乞う」のハガキが遠藤さんから届いてびっくり。電話を入れると遠藤さん本人が出て、内藤さんは二度びっくり。

 「遠藤さんは、医者というのは神父といっしょで、人間の魂に手を突っ込む仕事だとおっしゃいました。相当の覚悟をもってとり組むべき仕事で、本来は宗教者もそうでしょうけれども、現場で苦しむ人々ときちんと向かい合える専門家がどれくらいいるでしょうか」

 ふつうなら、勤務医として病院で「患者を治す」道を選ぶところだが、のちに内藤さんは在宅で死と向かい合うターミナルケア、在宅ホスピス医への道を進むことになる。1986年、英国人のピーターさんと結婚して英国に渡った内藤さんは、近代ホスピス運動の創始者、シシリー・ソンダース女史とめぐり会い、新しく開設されたデイホスピスケアで、「鍼」も使う〈東洋人の女医〉として、7年間をすごした。

 そして、内藤さんは自身の故郷である山梨県甲府市に、夫や子どもたちといっしょにイギリスから移住し、ふじ内科クリニックをオープンした。その後は、ホスピスケアを患者の家で実践する「在宅ホスピス医」として、地域に根差した「心あたたかな医療」を支え続けている。

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