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連載「つたえること・つたわるもの」(60)

「生育歴」の世代ループ、負のスパイラルを断ち切る。

連載 2019-02-26

 拙著に載せた一文(取材レポート)には、「子どもは親の症状である」という見出しをつけた。小児科医である大宜見さんに、「長年、小児科医をやっていると、連れてきた親のほうが実は患者で、連れてこられた子どものほうは、患者である親の症状ではないかと思うようなケースが多い」とうかがったからだ。

 子ども(患者)は、たいてい母親の膝の上に座って診察を受ける。取材時にも、こんなやりとりが……。

 「どうしましたか?」という子ども(患児)への質問に、母親はわが子の口が開く前に、「先生、この子が朝からゼーゼーがひどくって、大丈夫でしょうか」と、矢つぎ早に質問を発する。「この子のことは、母親である自分がいちばんよくわかっている。朝方から一睡もせずに看病していたから、どんなささいな症状も逃がしてはいない」という母親としての自負が、表情のすみずみによくあらわれている。

 もう一人、いつも目をパチパチさせる「チック症」で受診した女の子、カオリちゃんと母親、大宜見さん、診察室で交わされた三人の会話を、同書「子どもは親の症状である」から紹介しよう。

「かおりちゃん、目のパチパチ好きなのかなー」(大宜見)

「(首を横に振りながら)好きじゃない」(子ども)

「お母さんのオコリンボ、直ったかなー?」(大宜見)

「はい、あれから怒らないように気をつけています」(母親)

「お母さんじゃなくて、先生はカオリちゃんに聞いています。カオリちゃんはお母さんに『カオリ、お風呂に入りなさい(こわい口調で)』と言われるのと、『カオリちゃん、お風呂に入ったらー(やさしく)』と言われるのとでは、どっちが素直にハイッといって聞けるのかなー。『入ったらー』かなー?」(大宜見)

「うん(とうなずく)」(子ども)

「そしたら、カオリちゃんが目をパチパチさせるのは、どんなときかなー? 『カオリ!』とお母さんがオコリンボのときは、目をパチパチ……」(大宜見)

「する(とうなずく)」(子ども)

「そうか、自分でなぜパチパチするのかわかるんだ」(大宜見)

(思わずつられて、苦笑いする母親)

「先生、カオリちゃんと会うのが楽しみなんだ。目がパチパチしなくなって、病院にこなくなったら、さみしいなー。いつまでもパチパチしていてね」(大宜見)

「いやー(と言いながら、母親のほうに振り向く)」(子ども)

「カオリちゃんのお母さん、オコリンボ直った?」(大宜見)

「うん(うれしそうにうなずく)」(子ども)

(同書123~124ページ)

 大宜見さんがよく使う言葉に「キチンと病」がある。たとえば、「この子は、いまからキチンとしていないと、だらしない性格になってしまう。学校でもキチンとしていないと、この子は先生に叱られる。そうなったら、親の私がキチンとしていないからだと笑われはしないか」と心配するのが「キチンと病」で、もともと真面目で、自分の意志を押し通すより、周囲の目を気にするタイプの母親に多いそうだ。大宜見さんは、「カオリちゃんのケースでも、母親がこの子には、この子の人生のペースがあるのだ、この子の生き方もあるのだということを認めたときに、目のパチパチも治ってくるのです」とアドバイスしている。

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