連載「つたえること・つたわるもの」(60)
「生育歴」の世代ループ、負のスパイラルを断ち切る。
連載 2019-02-26
出版ジャーナリスト 原山建郎
前回のコラム№59(コントロールドラマ、愛情という名の支配欲依存症。)では、小学校四年生の娘(10歳)を虐待死させた容疑(主犯)で逮捕された実の父親(41歳)、夫の娘への虐待を知りながら助けようとせず、暴行の様子を撮影した容疑(共犯)で逮捕された実の母親(31歳)、この三人の親子・家族関係を知る手がかりに、お互いのエネルギーをやりとりする〔「しつけ」の名のもとに脅迫や尋問を繰り返した父親の暴行・虐待によって、被害者である娘は(生命)エネルギーを奪われ、やはり夫からのDV被害者である母親(妻)がさらなる被害を避けようとして傍観者に徹した〕コントールドラマとして考えてみた。
しかし、このような出来事を、それぞれがなぜ脅迫者、尋問者、被害者、傍観者の役割を演じたのか、あるいは演ぜざるをえなかったのかという心理分析では、何の解決にもならない。そこで今回は、親が子どもであった時代に、親自身の親からどう育てられたかという「成育歴」の視点から見直してみたい。
事件後、テレビのワードショー番組で、児童虐待問題にくわしい専門家が、「わが子を虐待する親もまた、やはり幼いころにその親から虐待を受けていたというケースが多くみられる」と述べていた。そのコメントを耳にして、かつて健康雑誌の記者時代に、小児科医の大宜見義夫さん(日本小児心身医学会認定医、当時=おおぎみクリニック院長、現在=同仁病院小児科医)を取材したときの話を思い出した。
親自身の、そのまた親との親子関係を、「成育歴」という。子ども時代、親(父母など主たる保育者)からされた「しつけ・注意」で、自分が「嫌だ」と思ったことを、自分が親になったときに、かつて自分が「嫌だ」と思ったはずなのに、それは父親・母親として本来果たすべき役割なのだと(無意識に)考えて、わが子に対して同じことをしてしまう、親子関係の世代ループ(反復)を繰り返す症例は少なくない、と。
大宜見さんの取材はもう30年ほど前だが、拙著『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫、2001年)に書いた中から、母親の「成育歴」をいくつか挙げてみよう。
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