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連載「つたえること・つたわるもの」(48)

新しい「意味」を生む対話の身体性、クリエイティブな関係性。

連載 2018-09-11

 これはそのまま、斎藤さんがいうクリエイティブな関係性とは言えないかもしれないが、一見ネガティブとも映る教員と学生の対話(誤りの指摘、医療現場からの抗議)をきっかけに、新たな意味をフィードバックされたコミュニケーションが再開されたのである。コミュニケーションは一方通行では成り立たない。双方向を意味する英語、インタラクティブ(inter-active)は、どちらにもアクション(action)が起きるような、つまり打てば響く身体性をともなう、双方向のクリエイティブな関係性なのである。

 先日、古い資料から対談速記(200字×167枚)を見つけた。健康雑誌の記者だった1980年、作家の遠藤周作さんと医師で操体法の提唱者、橋本敬三さんの対談速記録である。もう38年も前だが、一つひとつの言葉の遣り取りから、お二人の肉声や所作をたちどころに思い出す。雑誌に載せる原稿(200字×40枚前後のまとめ)にするためには、重要な部分だけを抜き出して、全体の八割近くは割愛せざるをえない。

 聞き手である遠藤さんの言葉からは、対談で発見した新たな知識にびっくりしている様子がよくわかる。

ほう、そこんところをもうちょっと教えてください。つまり……/そうですか、ほう。/うん、なるほどな。/あっけないくらい簡単ですね。/いまの簡単なことで治るの。

 対談の面白さは、お互いのやりとりを通して、これまで気づかなかった新たな意味を発見する、その瞬間に出会えるところにある。かつて週刊誌の連載「周作怠談」など、対談の名手と謳われた遠藤さんだが、テンポよく質問を繰り出す、絶妙な間のとり方は、まさにクリエイティブな関係性を生み出す才能である。

 『対談 わかることはかわること』(佐治晴夫・養老孟司著、河出書房新社、2004年)の「あとがき」に、宇宙物理学者の佐治晴夫さんが、養老孟司さんとの対談で得た新たな意味について書いている。

 ところで、対談のおもしろさは、対談相手を独り占めして、自分の知らない分野のことを相手のかたから学びとることができるという極めて贅沢な体験にあるのですが、それに加えて、相手のかたとお話をしているうちに、「忘れていた自分」を思い起こし、さらには、「知らない自分」を発見しているというスリリングな体験ができるところにもあります。
(『対談 わかることはかわること』202ページ)


 その人と話していると楽しい、ずっと話していたいと思える人とは、心地よい対話の中で「忘れていた自分」を思い起こし、「知らない自分」を新たに発見できる、打てば響く身体性の持ち主なのだろう。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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