連載「つたえること・つたわるもの」(38)
自分が考える「わたし」らしさ、相手が感じる「あいつ」らしさ
連載 2018-04-10
出版ジャーナリスト 原山建郎
十数年前、私がまだ出版社に在籍していたころ、何よりも「自分らしく生きたい」と思っていた。ということは、その裏を返せば、「自分らしく生きていない」と思うことも多くあったことになる。
たとえば、①役員会で上司から「つまらなくてもいいから、売れる本をつくれ」と言われ、「よい本をつくって、多くの人に買っていただくのが出版社の仕事です」と口答えして、取締役から監査役に飛ばされた(※監査役の皆さん、ごめんなさい!)。そこで商学部出身の私は、監査役のにわか勉強に精を出す。
そして、②駆け出し監査役として役員会で問題点を指摘すると、「そんな堅いこと言うな(忖度せよ)」と言われたが、それを断った。テレビドラマ「監査役 野崎修平」ではないが、監査役の承認(記名捺印)なしに取締役会は成立しない。次の株主総会では再任されず、56歳でハローワークに通うハメになった。
いまにして思えば、であるが、①では上司(CEO)の立場からは、ある意味で「(経営戦略的には)正しい」発言だったかもしれないし、あるいは「柳に風」と聞き流せばすんだことかもしれない。また、②でも「堅いこと」を言わなければ、監査役として再任されて(失業しないで)いたかもしれない。かくして、自分が考える「わたし」らしさと、相手(上司)が感じる「あいつ」らしさとの決定的な違い、つまり品質本位(編集者気質)と利益重視(経営者感覚)のすれ違いドラマは、ドラスティックな結末を迎えたのであった。
その後、いくつかの大学で教員(非常勤講師)を務めることになる私が、最初に担当したのはキャリア系(新卒の就職サポート)の授業だった。近年、安倍政権は言語明瞭・意味不明の「働き方改革」なる旗印を掲げ、大企業中心の経団連は「即戦力」を叫んでいるが、私が担当するキャリア系授業のコンセプトは、「大学生活の四年間は、就職予備校ではない。充実した大学生活の延長線上に、就職がある」というものだ。
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