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連載「つたえること・つたわるもの」(30)

「真面目」、「無遅刻無欠席」は、〈強み〉にも〈弱み〉にもなる。

連載 2017-12-12

出版ジャーナリスト 原山建郎

 今月初め、大学三年生の面接対策講座で模擬面接官を務めた。

 学生たちがいちばん苦戦したのが、自己PRであった。事前に配布した「ほんとうの自分を好きになる」ワークシートに、〈私の弱み〉〈私の強み〉をそれぞれ思いついた順に、五つずつ書き出す課題を与えた。

 面接での自己PRには、相手(この場合は企業の採用担当者)に「知ってほしい自分」「ぜひ伝えたい自分」を、わかりやすく「伝わる」ように、具体的に「伝える」ための戦術が求められる。

 最初に〈私の弱み〉を書かせたのは、〈私の強み〉が往々にして「自慢話」や「ひとりよがり」になりやすいからだ。たとえば、「高校時代は名門野球部の部長でした」「県の吹奏楽コンクールで優勝しました」などは、たしかに重要な役割や大きな成果につながる〈私の強み〉には違いないが、採用担当者としては野球部の部長という重責や吹奏楽コンクール優勝の経験で得たものが、いま大学生である自分の学生生活にどう生かされているか、そこまで話してもらわないと、いま現在の〈私の強み〉として響いてこない。とくに中学・高校時代に「成し遂げたこと」の発表では、ともすると話し手(学生)が「がんばった」ときの感激が強すぎて、「具体的にどうがんばったのか」「何か困難を乗り越えたのか」についての言及がほとんどない。

 女子学生のUさんが、「私の強みは、真面目です」という内容で自己PRをした。見るからに真面目そうで、面接官としても好感の持てる人物である。しかし、面接官の私はそこで満足するわけにはいかない。「あなたは、どう真面目なのですか?」「真面目でよかったこと、あるいは困ったことは何ですか?」と質問を投げかける。Uさんは、「真面目です」という自己PRで、すでに完結したと思っていたのか、けげんな表情をした。そのあと、私の質問に対して、Uさんなりの答え(発言)があったので、次の質問に移った。
ひと通り、模擬面接が終わって、フィードバック(振り返り)するときに、次のような話をした。

「私は真面目です、だけでは〈私の強み〉にならない。一般社会では、社員が真面目であるのは当たり前。現実には社内会議に時間に遅れる、仕事を適当にサボる社員はいます。しかし、それでも会社は基本的に真面目を大前提にして成り立っている世界なのです。真面目を自己PRするならば、他人(友人、家族)や組織(部活、ゼミ)とのかかわりの中で、自分の真面目(な行動)がどう生かされているか、どう評価されているか、そこまで考えて話さないと、真面目さのよさが相手に伝わらない、理解されにくいということです」

 たとえば、「真面目」な性格の持ち主は、他人はいい加減に仕事をしていても、自分は仕事を最後までサボらずにやる、それはそれで立派だといえるのだが、そこで自己完結(他人はともかく、自分だけは仕事をやり遂げる)してしまうところに、ある意味で「ひとりよがり」になりやすい〈私の弱み〉がひそんでいる。「私なら(あの人のように)仕事をサボらない」と相手を非難しながら、自分だけいい子になっていないか。そこで立ち止まらずに、いい加減に仕事をしている他人に、「真面目に仕事をしよう」という気持ちを起こさせる何か、よい影響をおよぼしたいという思いがあれば、「真面目」の発揮の仕方も変わってくるはずだ。

 数年前、「無遅刻無欠席」を売りにする学生がいた。小学校から高校まで無遅刻無欠席で、毎年皆勤賞をもらっていたそうで、大学でも授業に遅刻したことがないという。なにしろ学校が毎年、証明書を発行するほどだから、これはこれで素晴らしい偉業を達成したわけだが、しかし、私は次のような質問をしてみた。

「大学でも無遅刻無欠席を続けているのはすごいことですね。ところで、もっとも力を入れている科目は何ですか? ちなみにその科目の前期試験の成績、評価はS(秀)ですか? あるいはA(優)ですか?」

 想定外(?)の質問に、思わず絶句してしまう学生。ちょっとかわいそうな気もするが、ここで、面接官としては、フィードバックのときに、もう「ひと鞭」入れることにした。

 「社員の無遅刻無欠勤は、病気や忌引き以外では当たり前のことです。会社は毎年利益を生み出して、その中から社員の給料を払っています。社員の給料は、一時間当たり何千円という時間給で計算されます。したがって、無遅刻無欠勤の勤務態度を大前提にして、一時間当たりの「働き(労働効率)」を見ているのです。いま流行りの言葉でいえば、コスパ(コストパフォーマンス)です。大学生である皆さんにとってのコスパとは、無遅刻無欠席で取り組んでいる授業(科目)の成績評価ということになります」

 前回、コラムの最後に、『「コミュニケーション失調症」に陥っているかに見える日本社会は、本当の「コミュニケーション能力」を取り戻すことができるのだろうか? 今週末の面接対策合宿で、その処方箋をさぐってみたい。』と書いたが、今回の「真面目」「無遅刻無欠席」自己PRもまた、ともすると「自己完結」で満足しがちな多くの学生たちが、実際のビジネス社会で生き生きと活躍するためには、「自己完結」が許されている学生という殻を破って、コミュニケーションがとりにくい大人と会話する勇気が求められている。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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