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ゴムの先端研究<第1回>

東京工業大学物質理工学院応用化学系教授・博士(工学)中嶋健氏

その他 2019-06-24

中嶋健教授

ゴム、フィラー、界面の粘弾性挙動を解析

 日本の大学など研究機関では、ゴムに関する多くの先端研究が進められている。そこで「ゴムの先端研究」と題し、日本でゴムに関する先端研究を行っている研究者とその内容を紹介する。第1回は東京工業大学物質理工学院応用化学系教授で博士(工学)の中嶋健氏。中嶋教授が行っている原子間力顕微鏡(AFM)を用いたゴム材料の解析について聞いた。

 ■ナノ触診AFM
 当研究室では、AFMを用いてゴム材料を対象に研究を行っている。AFMは板バネの先端にナノサイズの針が装着されており、それを用いて材料の表面をなぞることで、表面の凹凸を調べることができる装置だが、当研究室では別の用途で活用している。

 当研究室では、AFMの針で材料をなぞるのではなく、押すことによりその材料の硬さを解析している。1ミクロンといった小さなスケールで、細かく硬さを解析していくことができる。例えば3ミクロン角で100×100点、もっと多い場合もあるのだが、それらの点を針で押し、硬さの結果を画像化する。硬い部分は青色、柔らかい部分は赤色、その間は緑色といった具合で表示している。それにより、ナノスケールでの硬さ、柔らかさをマップとして可視化できる。一点一点押す様子を医師の触診になぞらえ、それをナノスケールで行っているため、ナノ触診AFMと名付けている。

 タイヤに使用されるゴム材料を例に取ると、ゴムの中には硬い微粒子であるカーボンブラックやシリカといったフィラーが配合されている。それらがどう分散しているかは他の顕微鏡でも観察することができるのだが、ゴムとフィラーの間にはそれらの相互作用によってゴムなのにゴムよりも少し硬い界面と呼ばれる部分が存在する。これは他の顕微鏡で観察することができない。ナノ触診AFMは、この界面の力学特性を計測できる唯一のものといえる。

 一般的にタイヤ用材料の開発では、配合するフィラーの種類を変えたり、フィラーとの相互作用を変えることで、例えば低燃費タイヤに合うゴム材料、スタッドレスタイヤに合うゴム材料にしていくのだが、従来だと実際に手に持てるくらいのサイズのゴム材料を作成し、それを引張るなどの力学試験を行うことで、その特性を測定していた。しかし、その試験ではゴムとフィラーが実際どのように相互作用しているのかまでは分からない。

 ナノ触診AFMは、ゴムやフィラーだけでなく界面も可視化できるので、表された画像を見れば、その力学特性が把握できる。こういう画像だとこういう力学特性といった具合だ。画像で特性が判断できるため、ゴム材料の研究開発のスピードは大いに加速すると思う。

 一方、学術的に言えば、ゴムとフィラーを混ぜると力学特性が良くなることは知られているが、その理由は明らかになっていない。ナノ触診AFMを用いると物性を画像で知ることができるので、それを用いてフィラーによる補強メカニズムの解明を行えればと考えている。

 ナノ触診AFMを用いた解析手法は当研究室の完全なるオリジナルではないが、現在、この解析手法はISOで標準化が進められており、私はそれに携わっている。そういう意味で、当研究室はこの分野で世界をリードしていると言えるだろう。

 ■ナノレオロジーAFMへの発展
 ナノ触診AFMを用いた解析手法は、約10年前に完成したものだ。そのため、次のステップとしてナノレオロジーAFMという装置を開発し、それを用いた解析を行っている。

 押せば押すだけ力がかかり、戻したら力がなくなる。そういう素直な関係性をゴムなどの高分子材料では弾性と呼ぶが、ゴムは弾性だけでなく、粘性も併せ持っている。ゴムに関係する企業の人は、この粘性を表すことができる損失正接(タンデルタ)が非常に重要だと考えており、材料の硬い、柔らかい、つまり弾性だけでなく、損失正接を解析できないかという話が以前からあった。そのため、数年前から装置開発を進め、針で押すだけでなく、一点一点に振動を加えながら押すという解析手法を開発した。この解析手法は現在、世界でも当研究室しかできない。

 粘性は、動いたスピードに比例して力が強くなっていく。そのため、ナノレオロジーAFMでは加える振動のスピードを徐々に上げていき、どの速さで粘性の最大値が出るのかを解析できる仕組みとなっている。損失正接をゴム、フィラー、界面の部分それぞれで解析できる。弾性だけでなく、粘性も加わった情報は、おそらくゴムを扱う全ての企業が欲しい情報だと思う。粘弾性を研究する学問のことをレオロジーと呼ぶが、それをナノスケールで行っているため、ナノレオロジーAFMと名付けた。

 7月26日に開催される、日本ゴム協会の夏期講座では、「ナノレオロジーAFMによるフィラー-ゴム界面の粘弾性挙動」と題し講演する。ゴムとフィラー、界面で粘弾性の挙動がどのように違うのかを明らかにした結果について報告する予定だ。

 ■7月25、26日にアクトシティ浜松コングレスセンター(静岡県浜松市中区)で開催される日本ゴム協会主催の夏期講座「確かな未来を築くゴム・エラストマーの最新技術」で、中嶋健教授が講演する。詳しい問い合わせは、日本ゴム協会第54回夏期講座係(電話03・3401・2957)まで。

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