連載「つたえること・つたわるもの」(68)
「く」のからだを「あ」のからだに開く、ため息健康法。
連載 2019-06-25
出版ジャーナリスト 原山建郎
前回(6月11日)のコラム「天と地のエネルギーを巡らせて、再び大地に還す、足芯呼吸法」の続き(大正大学大学院「人間学特論A」のゲストスピーカーとして行った午後の授業)である。
午前の授業では、まず天地のエネルギーを(鼻から吸う)吸気でとり込み、からだ全体に巡らせ、最後は(口から吐く)呼気で大地に戻す西野流呼吸法(足芯呼吸)の演習。そして、午後の授業では、「ケアする人をケアするⅡ――「く」のからだを「あ」のからだに開く、ため息健康法」というテーマで、「からだのゆるめ方、こころのほぐし方」の講義と、私が独自に考案した「ため息健康法レシピ」を演習した。
私たちは苦しいとき、首を垂れ、前屈みになり、内側にからだを閉じて、防御の姿勢になる。たとえば、からだが痛く苦しいときは、そのつらさから逃れようとして、からだを前に屈めてうずくまる「内転屈曲」の姿勢をとる。ひらがなの「くの字」に折り曲げ、「くッ」と息を詰め、苦痛に耐える「くるしい、助けて!」の姿勢、これが、くや(悔)しい、くる(苦)しい、クローズの姿勢、「く」のからだである。
痛みや苦しさが消え、楽に動けるようになると、あかるい、あけっぴろげ、オープンな「あ」のからだとなる。「あ」のからだは、「たの(楽)しい」からだ。やまとことば(日本古来の話し言葉)の「たのし」に漢字を当てると、「手(た)伸(の)し」となる。両手を大きく広げ伸ばした「たの(楽)しい」姿勢である。また、「あ」のからだは、からだの内側から湧き上がる笑い、「あっはっは」の「あ」でもある。
五十音図の一番目、「ア行」は笑いの行である。
「あっはっは/いっひっひ/うっふっふ/えッヘッヘ/おっほっほ」
これらの笑いの中でも、「あっはっは」の笑いは、足のつま先から頭のてっぺんまで、からだがまるごと「あ」のかたちに開かれる。からだが「あんしん(安心)」して、かた(硬)さ(筋肉の緊張)をとき、ゆるみ、外側に開かれた「外展伸長」の姿勢、相手をやさしく受け容れる、「あ」のからだになる。
ここで、本日のメーン・イベント、主役の「ため息健康法」が登場する。
昔から、「ため息はいのちを削る鉋(かんな)かな」(江戸古川柳)、「ため息の数だけ幸せが逃げる」(格言)などと、「ため息」のイメージはあまりよくない。本来、「ため息」は、失望、心配、または感動したときにつく長い息のことで、私たちが身も心も〈生き詰まった〉ときに、思わず知らずつく大きな息をいうが、実は私たちの人生を〈生き抜く〉ための、からだの智慧である。また、やまとことばの「いき(息)」は、「いき(生き・息)る+き(気)」である。つまり、〈生き詰まった〉からだの元凶は〈息(いき)詰まった〉呼吸なのだから、「ため息」という〈息(いき)抜く〉呼吸法によって、ガチガチに緊張した「く」のからだをゆるめ・ほぐして、明るい人生を〈生き抜く〉「あ」のからだに戻そうというわけである。
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