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連載「つたえること・つたわるもの」(50)

視覚障害者への〈声かけ・サポート〉、どう介助したらよいか。

連載 2018-10-09

出版ジャーナリスト 原山建郎

 先月初めから今月末までの2カ月間、全国76社の鉄道会社による共催事業に、視覚障害者団体などが協力して、〈声かけ・サポート〉運動の強化キャンペーンが行われている。これは、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックを念頭に、日本の〈おもてなし〉精神を普及したいという狙いがあるのだろう。

 この〈声かけ・サポート〉強化キャンペーンは、もともと〈お困りの方へのサポートに関する取り組み〉の一環として、鉄道会社スタッフによる接遇サービスの向上を目指していた。たとえば、JR東日本では現在約9500名の社員が、「おもてなしの心(ホスピタリティ)」と「安全な介助技術」を実践するサービス介助士の資格(※民間資格)を取っている。また主要なターミナル駅には、タブレット端末を活用した案内サービスや運行情報を提供するサービスマネージャー(※鉄道会社職員)が配置されている。

 しかし、今回の〈声かけ・サポート〉強化キャンペーンでは、鉄道各駅の案内放送や車内放送で、「困っている方がいらっしゃいましたら、何かお困りですか?というお声がけをお願いします」というアナウンスが流れている。これは利用客自身に積極的な「お声がけ」を求め、昔から「困ったときは相身互い身」というように、鉄道会社が利用客の自発的なサポートをうながす内容のアナウンスになっている。

 今回、共催各社が掲出を申し合わせた駅のポスターには、次のようなコピーがある。(※は原山注)

●あなた(※利用客を主語にしている)の「声かけ」が、駅や車内を快適にする。
●「声かけ・サポート」運動、拡大中(※数字的な裏付けはあるのか?)。
●声をかけるという(※健常者である利用客の障害者への)思いやり。今、広がっています。

 このポスターに描かれた8つのイラスト図解のうち、気になった表現が2つある。

①(白い杖の視覚障害者に、女性駅員が声をかけるイラストで)
 「お手伝いしましょうか
 (※利用客による、自発的な)お声かけ自体がサポートです。

②(地図を見ている外国人に、男性駅員が声をかけるイラストで)
 お困りの外国人には
 「May I help you?」のひと声を。(※簡単な英会話ができることが前提になっている)

 もちろん、私たちは困っている人を見かけたら、自分にできる範囲でサポートする。したがって、その趣旨そのものに異論はない。しかし、ここで問題なのは、たとえば視覚障害者への〈声かけ〉はできるとしても、適切に〈サポート〉するための基本的な知識と技術が、圧倒的に不足していることである。

 ①の「お手伝いしましょうか」という「お声かけ自体がサポートです。」で考えると、〈声かけ〉はあくまでも「きっかけ(手段)」で、相手がしてほしい「手伝い(目的)」の中身が見えてこない。たとえば、鉄道会社と視覚障害者団体共同制作の『視覚障害者に対する〈声かけ・サポート〉ハンドブック』を、駅構内の売店やコンビニの店頭で、50円程度(消費税免除)の定価をつけて販売したらどうか? 売上金の一部は東京パラリンピックの大会ボランティア運営費に寄付すればよいのではないか。

 ②の「May I help you?」(なにかお手伝いしましょうか)では、英語が話せると思われて、次々に質問が飛んでくる。これも、鉄道会社と英会話スクールの共同制作で、駅の場所を聞かれた外国人と地図を一緒に見ながら、「We’re here now. (今、我々はここにいます)」「〜 is here. (〜はここです)」と位置を指で示す、などと書かれた想定問答集を『外国人に対する〈道案内の想定問答〉ハンドブック』にまとめ、50円程度(消費税免除)の定価をつけて販売したらどうか? 売上金の一部は東京オリンピックの大会ボランティア運営費に寄付すればよいのではないか。

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