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【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER

デンカ、サーキュラーエコノミー推進活動に注力―ポリスチレンケミカルリサイクルによる新たなリサイクルシステム構築を目指す

SUSTAINABLE&RUBBER 2024-07-16

 経営計画「Mission 2030」において、サーキュラーエコノミー推進が重要と捉えている化学メーカーのデンカ。同社は2024年3月にポリスチレン(PS)のケミカルリサイクルプラントを千葉工場(千葉県市原市)内に竣工。さらに同年5月には、市原市と同社協力会社である東洋スチレンの3者で、「ポリスチレンケミカルリサイクルに関する事業連携協定」を締結し、新たな資源循環型リサイクルシステムの構築を目指していくこととなった。デンカは循環型社会実現に向けた廃プラスチック再資源化の取り組みを、他者とも連携しながら着実に進めている。

ポリスチレンケミカルリサイクルプラント

ポリスチレンのケミカルリサイクルプラントの稼働を開始

デンカ千葉工場


 デンカは経営計画「Mission 2030」の中で、スチレン系包装材料のサーキュラーエコノミー推進を掲げている。千葉県市原市で稼働したポリスチレン(PS)のケミカルリサイクルプラントはその第一歩だ。

 プラスチックは、生活に欠かせない機能と高い汎用性を兼ね備えた素材である一方、海洋プラスチック問題や廃プラスチックの焼却による温室効果ガス排出等といった環境への影響が、国際的な重要課題となっている。

 プラスチックの主要なリサイクル法の一つであるマテリアルリサイクル(材料リサイクル)は、使用済みプラスチックを粉砕・再加工し、プラスチックに再生する手法だ。社会で広く用いられている一方で、不純物の混入が防ぎにくく、リサイクルを繰り返す中で素材の性能低下や、品質の問題で一部用途に制限がある。特にプラスチックの一種であるPSの国内需要は、60%以上が食品包材用途だが、従来のリサイクル法では品質安全上、食品と接触する用途に再使用するのが難しい。

 そこで、デンカと、その持分法適用関連会社の東洋スチレンは、新たな資源循環型リサイクルシステムの構築が必要だと考え、協働でPSのケミカルリサイクルプラントの稼働を決断。2024年3月19日に、同プラントをデンカ千葉工場(千葉県市原市)内に竣工した。食品トレーなど各種包材の使用済みPS容器を回収し、化学的に分解してプラスチック製品の原料として再生利用する新しい取り組みを実施していく。

モノマー法のケミカルリサイクルに挑戦

ポリスチレンケミカルリサイクル循環モデル


 同プラントは、熱分解工程と回収工程、精製工程で構成されている。

 熱分解と回収工程では、世界で唯一PSのケミカルリサイクルの商業運転を行っており、その技術優位性と実績を有する、Agilyx(アメリカオレゴン州)とライセンス契約を締結。同社の技術を導入した。また精製工程では、デンカのスチレンモノマーの分離技術とそのハンドリング技術を応用し、プラントを設計した。

 「代表的なケミカルリサイクルの手法として①油化法②ガス化法③モノマー法があるが、デンカはモノマー法に挑戦していく。PSは熱分解によりモノマーに戻しやすい性質を有している。スチレンモノマーメーカーである当社としては、取り組む上で非常に高い優位性と意義があると考えている」(山口徳幸デンカ千葉工場次長兼東洋スチレン五井工場長)

 ケミカルリサイクルによって、樹脂ではなくもう一段川上の原料まで戻すことで、得られたスチレンモノマーを再度重合し、新品同等の品質と特性を持つPSを再生産する。新品同等のため、リサイクル製品の用途に制限なく、劣化がないため繰り返し再生し、循環使用することも可能となる。さらに単純焼却(サーマルリサイクル)と比べ、CO2排出量を約40%削減(※デンカ試算)する。

 同社グループが取り組むケミカルリサイクルは、低炭素排出かつ水平リサイクル可能なシステムとして注目される。同社グループは今後、同プラントにて再生したPSをマスバランス方式で提供することを検討しており、また同社グループ各拠点において、ISCC Plus認証(国際持続可能カーボン認証)を取得した。

 同プラントの年間処理能力は3,000トン。「当然、まだ社会全体にインパクトを与えていく量ではないと思っている。今後市原市との取り組みをはじめ、様々な取り組みや実験を重ね、能力増強やシステム構築など検討していきたい」(同)。

千葉県市原市の使用済み廃棄物の減量と再資源化に貢献していく

「ポリスチレンケミカルリサイクルに関する事業連携協定」を締結した3者による会見


 デンカと東洋スチレンは2024年5月24日、循環型社会の構築を目指し、「ポリスチレンケミカルリサイクルに関する事業連携協定」を市原市と締結した。同プラントを活用した連携によって、市原市の使用済み廃棄物の減量および再資源化をさらに進めていく。

 市原市では2021年から、「自治体SDGsモデル事業」として食品トレー等の使用済みPS容器の回収に、市民・企業・行政が一体となり取り組んできた。

 その試験回収の結果を踏まえ、2024年7月1日から市内の公共施設など14カ所で拠点回収を開始し、ケミカルリサイクルを実施する。回収対象となるのは、発泡白色トレー、発泡色付きトレー、発泡スチロール、納豆容器、乳酸菌飲料容器の5品目。デンカは、PS再生樹脂の製造支援等を担う。同社は今後プラントの実装を進める中で、他の自治体との連携の可能性も探求していく。

 「ケミカルリサイクルも含め、サーキュラーエコノミー実現には、経済的に、商売として成り立つか否かも重要だ。そういった意識で、当社はこれらの活動を事業として成立できるよう働きかけていく必要がある。ユーザーを増やすためにも、彼らに認められる価値を作り上げていく、そういった視点も持ちながら取り組んでいきたい」(同)

 最近では、これまで努力義務だった再生プラスチック使用について、新たに製造業を対象とした再生プラスチック使用拡大に向けた計画策定を義務付ける方針が、政府の方で固まった。国内でも着実に資源の有効活用や脱炭素化に向けての動きが加速し、機運が高まる様子が見られる中、デンカグループのサーキュラーエコノミー推進活動は先進的なものだと言えるだろう。

デンカ千葉工場次長 兼 東洋スチレン五井工場長 山口 徳幸氏


 ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。

 ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。

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