【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
日本ゼオン、サーキュラーエコノミー実現へ―独自のリサイクル技術とプラントで高機能樹脂シクロオレフィンポリマー(COP)循環利用を加速
SUSTAINABLE&RUBBER 2024-10-29
光学や医療、半導体分野で高い機能性を発揮している日本ゼオン独自の高機能樹脂シクロオレフィンポリマー(COP)。同社は、このCOPを加工したフィルムの製造時に発生する廃材を有効活用するため、独自のCOPリサイクル技術を開発し、2024年3月にリサイクルプラントが竣工した。同社は同取り組みを筆頭に、サーキュラーエコノミーの実現に向け、様々な取り組みを加速させていく。

COPリサイクルプラント
COPリサイクルを加速。高純度再生技術で新たな価値創造
日本ゼオンは、社会課題であるサーキュラーエコノミーの実現に向け、様々な取り組みを進めている。その一つが、光学や医療など幅広い分野で活用されるシクロオレフィンポリマー(COP)のリサイクルだ。同社は、同リサイクルにおいて、画期的な技術開発とプラント稼働を実現し、サーキュラーエコノミーの実現に向けて大きく前進している。

シクロオレフィンポリマー(COP)
同社は2022年1月、COPの透明度や高純度を維持したまま、未使用の樹脂と同等の品質レベルまで再生できる独自のリサイクル技術を確立した。2016年から研究を進めてきた同技術。2016年というと、2015年にSDGsが採択された直後だが、「それ以前から社内の研究者の間でマテリアルリサイクルは話題に上っており、すでに興味、関心は高かった」(日本ゼオン)。
2022年10月には、同社高岡工場(富山県高岡市)内に年産6,000トンのリサイクルプラントを着工し、2024年3月に竣工した。同プラントでリサイクルされた樹脂は、同社主力製品のCOPフィルム(製品名:ゼオノアフィルム)の製造に再利用される。なお、同社がCOP製品のリサイクルに取り組むのは今回が初となる。

COPフィルム(製品名:ゼオノアフィルム)
COPは、その高い透明性や耐薬品性等から、レンズやディスプレイ、医療用途など、精密機器やライフサイエンス分野に欠かせない存在。同社は、従来から光学分野と医療分野を主力市場と位置づけつつ、近年では半導体分野への展開も加速させている。それら分野の旺盛なニーズから、工程廃材の安定調達も可能となっている。
そもそも同プラントは、同フィルムの製造過程で発生する廃材を再生し、新たな製品へと生まれ変わらせることで、資源の有効活用とCO2排出量の削減を目指している。
COPリサイクル技術のブレイクスルーは熱処理による劣化の原因物質除去
通常プラスチックをリサイクルする過程で樹脂に熱を加えると、劣化し色が透明から黄色へと変化してしまう。その原因物質(樹脂や添加剤が一部劣化したもの)の除去こそが、今回のリサイクル技術におけるブレイクスルーとなった。
「ラボスケールでの実験で得たデータでは、投資決定の十分な根拠・証明とはなり得なかった。そこで未使用品と同等の品質を保てるのかどうかをデータで示し、関係者に納得してもらうため、当社の実機プラントを使った検証も行った」(同)
検証では、黄変の原因物質除去までの処理を外部業者に委託し、ペレット化の工程を同社水島工場にあるCOPのプラントで行った。外部で処理されたポリマーを日本ゼオンのプラントで加工する方法は、従来の手順とは異なる、イレギュラーな対応だった。
リサイクルプラントの本格稼働は、2024年12月以降を計画している。本格稼働に向けては、日本ゼオンだけでなく、サプライチェーン全体の関係者と連携し、十分な確認を行う必要がある。
「最終的に、フィルムのエンドユーザーから承認を得なければ、COPの樹脂リサイクルプラントは量産に移行できない。リサイクル樹脂の品質だけでなく、フィルム加工後の状態についても、厳密な品質検査を実施する必要がある」(同)
COPリサイクルプラントが社内で水平展開される可能性も
同プラントは、多方面から技術を導入、集約している。
オリジナル樹脂とリサイクル樹脂では工程が異なる。オリジナル樹脂は重合からペレット化まで一連の工程を経るが、リサイクル樹脂には重合の工程がない。廃フィルムを粉砕し、溶解、ろ過、ペレット化という工程になる。ろ過後からペレット化までの工程では、オリジナル樹脂の製造工程で培われた技術がベースになっている。
「今後、当社で他のリサイクルプラントを企画する場合、COPリサイクルプラントは、社内でのロールモデルになり得るだろう。この進め方は、全社的な水平展開もあり得ると考えている」(同)
まずは社内のリサイクル体制強化に注力
COPは医療分野など、精度の高さが求められる製品に使用されており、高品質と性能保持が非常に重要である。そのため、「ユーザーに無理な要求をすることなく、高品質な製品を提供することを最優先に考えている。リサイクルだからと、製品の品質を犠牲にするようなことは考えていない」(同)と言う。
日本ゼオンは、同リサイクルを通じ、自社内におけるリサイクル体制を強化していく。「まずは、同プラントを成功させ、市場の声に耳を傾けることが重要だと考えている」(同)。
COPリサイクルプラントの稼働は、同社のサーキュラーエコノミーへの取り組みにおける大きなマイルストーンと言える。一方、リサイクル樹脂の長期的な品質保証や、サプライチェーン全体との連携等、解決すべき課題も少なくない。同社はこれらの課題を克服し、リサイクル技術の更なる普及と向上に努め、社会全体の持続可能な発展にも寄与していく。

高機能樹脂事業部
㊧高機能樹脂技術部長
工藤 伸宏氏
㊨高機能樹脂販売部長
和智 謙一郎氏
ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。
ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。
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