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【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER

チル・ジャパン、シューズ1足に対し約15杯分のコーヒー粕を再利用―遊び心と機能性を両立したサステナブルなコーヒーシューズ

SUSTAINABLE&RUBBER 2024-07-29

 人々のストレスを足元から解放することをミッションとするシューズブランド「ccilu(チル)」では、機能性のみならず、遊びを効かせたユニークなデザインシューズを展開。その日本国内販売を担っているのが、チル・ジャパンだ。同社は二度クラウドファンディングを実施し、コーヒー粕をアップサイクルした防水シューズの商品化を実現する等、サステナブルシューズの拡販にも注力。サステナブル素材の開発や調達はグループ会社がある台湾が中心だが、「サステナブル消費の市場性に期待できる日本で、アップサイクルのシステムを構築したい」(弓長玄明チル・ジャパン代表取締役社長)と展望も語る。

PANTO全天候型防水コーヒーブーツ

2011年、シューズブランド「ccilu」を設立

 2011年、「ストレスフリーなライフスタイルを創造することにより、喜び、幸せ、満足をユーザーへ届ける」をミッションに設立したシューズブランド「ccilu(チル)」。同ブランド商品の国内販売を担っているのがチル・ジャパン(福岡県福岡市)だ。

 「当社は、台湾を拠点に研究開発も担うチル・インターナショナルの合弁会社だ。同社創立者・ウィルソン・スー氏による『コスト重視のOEM・ODM生産だけではなく、自社ブランドを立ち上げ、新素材を広げたい』という強い想いに共感し、もっと消費者に寄り添ったモノづくりをしようと、共同でブランド設立に至った」(弓長玄明チル・ジャパン代表取締役社長)

クラウドファンディングでコーヒーシューズの商品化に成功

「チルセル」と天然ゴムによるハイグリップソール


 チルブランドを代表するシューズの一つに「PANTO」シリーズがある。晴雨兼用の防水シューズで、ソールにはエコ素材「ccilu cell(チルセル)」を採用している。

 「チルセル」はEVA(合成樹脂)をベースに、同社が独自開発した耐摩耗性に優れた素材だ。主な特徴に、①微細なハニカム構造による超軽量②耐摩耗性③ナノテクノロジーによる抜群のフィット感④衝撃吸収⑤高い抗菌・防臭性能――が挙げられる。

 同社はこれまで二度、2021年と2023年に実施したクラウドファンディングにて、「PANTO」シリーズから、コーヒー粕をアップサイクルする独自開発技術「XpreSole」(海外特許取得済み)を使用したサステナブルシューズの商品化に成功している。2回とも支援総額は1,400万円を超えた。コーヒー粕はシューズ1足に対して約15杯分が再利用されており、除湿・消臭効果にも寄与する。

 また、ソールには「チルセル」と、滑りにくい天然ゴムを組み合わせ、濡れた滑りやすい地面でも強力なグリップ力を実現した。

機能性だけではなく、遊び心も大切にしたデザイン

「ブロックソール」


 2023年のクラウドファンディングで実現した「PANTO全天候型防水コーヒーブーツ」にはブロック形状の「ブロックソール」を採用。人目を引く、遊びを効かせた個性的なこのソールデザインは、ユーザーに人気を博している。

 チルは、イタリア「A’Design Award & Competition」のプラチナ賞やドイツ「Red Dot Award」の「Best of the Best」等、数々のデザイン賞を受賞しており、デザイン提案力も高い。「ブロックソールは当社の主力デザインだ。ブランド立ち上げ時、オリジナル商品を作ることが目標で、流行の商品をすぐに模倣するのではなく、独自デザインを生み出したかった」(同)。

有名ブランドとのコラボも

HONDAデザインモデル


 また同年に、HONDAとチルによる異色のコラボも実現。HONDAのバイクを連想させるPANTO全天候型防水コーヒーシューズのHONDAデザインモデルが、完全受注生産で1,000足発売された。クラウドファンディングサービスMakuakeにて89日間の限定販売を予定していたが、32日間で完売となった。

 「当社のシューズを、クラウドファンディング活動をきっかけに知ってもらい、先方からの提案でコラボが実現した。素材は、HONDAが経営するカフェ『MILES Honda Cafe』のコーヒー粕をリサイクルしたものを使用し、シューズのデザイン等は当社が担当した」(同)

 2025年頃までに、コラボ第2弾を予定しているという。

夢は日本国内で完結できるアップサイクルシステムの構築

 チルではコーヒー粕のほかにも、ペットボトルや竹、サトウキビ等、様々なサステナブル素材でのシューズの研究開発・販売を行っている。

 「現在、ペットボトルは台湾の飲料メーカーから安定して供給されている」(同)など、各サステナブル素材の供給は台湾が中心だ。また同国にグループ内が保有するリサイクル工場があり、雇用創出にも繋がっている。

 こうした活動実績が認められ、同社グループはサステナブルな「良い会社」に与えられる認証「B Corp」を取得。同認証は非営利団体B Lab(アメリカ)が営利企業に対し認証する制度で、その評価基準は非常に厳しいとされる。取得できれば、企業の透明性や説明責任、持続可能性、社会と環境へのパフォーマンス分野において、各評価基準を満たしている企業だと証明される。

 またリサイクル素材100%のシューズ生産や、シューズからシューズを作るマテリアルリサイクル実現の構想もあり、関連の研究をグループ全体で進めていく方針だ。「試作段階だが、履けなくなったシューズ素材を高温と高圧で油に戻し、工場の燃料にするという研究をしている」(同)。

 チル・ジャパンとしては、「日本国内で素材集めからシューズの製造まで一貫して行う体制を構築するという夢がある。実際に国内飲料メーカーから、コーヒー粕の処分に困っているという声を聞く」(同)。

 また同社は今後の課題として、ブランドの認知度向上を目指し、ブランディングとマーケティングに力を入れていく。「チルの主力として、特にコーヒー粕によるアップサイクルシューズを発展させ、まずは『チルと言えばコーヒーシューズ』という認知を高めていきたい」(同)。

代表取締役社長
弓長 玄明氏



 ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。

 ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。

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